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なぜアーカイブを作ることにしたか
2000年12月25日[BizTech eBiziness]より
96年から約5年間にわたって書いてきた原稿が全部ウェブ上にアップされた。全77編(96年3編、97年6編、98年14編、99年31編、2000年23編)をすべてお読みいただくことができる。 私がこのアーカイブを作りたいと思った動機は3つあった。 第1に、米国のネットバブルが崩壊したからである。「ホームページ開設にあたって」でも書いたように、私は原則として、シリコンバレーやフロンティアが大好きなので、おのずから、内容はある種の肯定的な傾向を持っていると思う。もちろん自分ではできるだけバブル的要素に踊らずに本質を見つめようと心がけてそれぞれの原稿を書いてきた。しかし米国ネットバブルが崩壊した今こそ、ここ数年に自分が書いてきたものをすべて「ディスクローズして」、誤っていた点は何か、また誤ったとすればなぜかを、第三者の方々の意見もいただきながら、自ら再考してみたかったからだ。 すべて公表済みの原稿を「ディスクローズする」というのも変な話だが、雑誌や新聞に書く原稿というのは原則として後に残らないから、心がけを間違うと、書きっぱなしになりやすい。本にするときに誤りをこっそり訂正してしまえば、批判は受けないですむかもしれないが、私の誤りから皆が学んで何かに活かしていくことはできない。だから、加筆修正なしで公開することにした。 80年代後半から90年代前半の日本バブル崩壊の検証が遅れた背景に、評論家やエコノミストが、自ら主張してきたことに対して全く責任を取らなかったことがある。その瑕疵から何かを学んで自ら行動に移せることがあるとすればと考え、ささやかながら、このアーカイブを作ることにしたのである。 第2に、日本にも米国から遅れること数年で、IT革命の波がようやく到来したからである。私はシリコンバレーの最前線で起きていることに興味があるので、日本から見るとずいぶん先を行っている事象をテーマとして取り上げることが多い。最近、私の顧客から質問を受けて、「ああ日本のIT産業の状況は米国の数年前と似ているから、ちょうど数年前に書いたあの原稿が参考になるなぁ」などと思いたち、その原稿をコピーした上で解説を付して回答したことが、ここのところ何回か続いた。 いっそのこと、全部アーカイブにしてしまえば、過去に書いた原稿にも、日本と米国の時間遅れの要素を勘案して読む新しい読者がつくかもしれない。そんな風にも思ったのである。 第3に、5年間書いてきたそれぞれの原稿と、これから書いていく1つ1つの原稿を「総合した連続性のある1つの作品」として、ウェブ上に展開してみたいと思ったことである。 私のテーマは、シリコンバレーやネット産業のフロンティアを何とか理解し、それが日本人や日本企業にとってどんな意味があるのかを考える、ということで一貫している。 その意味では、同じテーマについて、時を置いて、何回も書くことが多い。また、あの時はこう思ったけれど、今はこう思う、という風に、過去に書いた原稿を参照しながら、新しい原稿を書くことも多い。また、ある人はこう書いているけれど、私はこう考える、という風な書き方もよくする。その意味で、リンクを縦横に張ることのできるハイパーテキストは、私のスタイルに、実にフィットしていると思ったのである。 そして、これからはアーカイブが存在することを前提として、そこにリンクを張りつつ、あるテーマについて時系列で考えたり、過去の考えを反省したり、再考したりすることも可能になる。 その意味で、これから1年くらいかけて、過去に書いた内容を同時代に置きなおしてどう理解すればよいかを、きちんと再考してみたいと思っている。 そして最後に、アーカイブの中でいちばん思い出深い原稿は、日経産業新聞に98年8月に書いた「ソフト開発「革命前夜」」と、同じく日経産業新聞に1年後の99年8月に書いた「リーナスは何を思う」の2つである。 あっという間にメジャーストリームに踊り出たLinuxとオープンソースをめぐる原稿は98年から99年にかけてずいぶん書いたが、迷いながら最初に書いたのが前者、やや呆然としながら最後に書いたのが後者である。 オープンソースについてはいずれきちんと総括したいと思うが、あるとき私はオープンソースに対する興味を完全に失ってしまった。そんな現在の視点から、過去に自分が書いた原稿を突き放して読み、物事の本質を考えていくといった作業は、何らかの価値を生み出すかもしれないと思う。 いずれにせよ2001年には、ちょっと新しい実験を、アーカイブ付きのこのホームページでやってみようと思っているので、乞うご期待、と申し上げておきたい。 読者の皆様、良いお年を。 ■
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