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ビジョナリー、ポール・サフォーのジョーク
2001年3月26日[BizTech eBiziness]より
前回の本欄「ミクロに没頭するシリコンバレー」の最後で、『興味がある読者の方は、「FAST Company」という雑誌に掲載された「What's Next for the Net?」という特集を読んでみてください。』と書いたが、それはポール・サフォーが面白いコメントを残していたからだ。 ポール・サフォーは知る人ぞ知る未来学者、ビジョナリーとして知られる。私の仲の良い友人の一人だ。正式な肩書きは、Institute for the Future(IFTF)という研究所のディレクター。ただまぁディレクターといっても、この研究所はポールにほぼすべての自由を与えているから、好きなことを考えて暮らしているというのが正しい。シリコンバレーの中心にいて、ベンチャーとの交流も深いが、学問、研究を最優先にしているから、金銭欲がなく、実に恬淡とした生き方をしている。 日本語訳された著書は2冊。1冊は「シリコンバレーの夢」。92年にジャストシステムから出版されたが今は絶版。もう1冊は、シリコンバレーとは関係ないが、「原爆の軌跡―過去と未来への旅」(小学館文庫)。こちらの方はまだ手に入るだろう。
さてポールは、「What's Next for the Net?」の中で、 このジョークを読んで、あれどこかで読んだことがあるなぁ、と思われた読者の方はかなり通だ。実は、このポールのジョークは、「FAST Company」に掲載されるずいぶん前に、日経産業新聞にインタビューの形で掲載されているからだ。掲載日は昨年の9月29日。インタビュアーは、日経シリコンバレー支局の影木准子記者。「米ネットバブル宴の後」というタイトルのインタビュー記事だ。余談だが、影木さんは三月で東京に帰任してしまったが、ここ数年シリコンバレーでなかなか良い取材をして、バランスのいい記事をたくさん書いていた。「日経テレコン」データベースを使える環境にいる読者の方は、新聞全文検索機能で、キーワードを「影木准子」として、期間を1999年から最新までとすると、彼女がこの2年2カ月の間に書いた記事が552件出てくる。なまじのシリコンバレー本を読むよりも、ずっと勉強になると思う。 さて本題に戻ると、ポールは、このインタビューの中で、「4月半ばのハイテク株の下落後、何が起こったのか。」という影木さんの問いに答えて、「多くの起業家が窓から飛び降りた。しかし、ウォール街の高層ビルと違ってシリコンバレーの建物はたったの二階建て。だから起業家は足をくじいただけで、また仕事に戻った(笑)」「今回に限らず、そもそもシリコンバレーは失敗した会社の死骸(しがい)で埋まっていることを忘れてはならない。ここでは失敗しても、失敗の仕方によってはヒーローになれる。日本には『天下り』があるが、ここではその逆で、失敗した起業家が地獄からはい上がり、最終的に成功することができる。ただ、昨年末まで行き過ぎた面があったのは事実で、1987年の株式市場のクラッシュと同様に、行き過ぎを是正できたことはよかった」
また「シリコンバレーがまた行き過ぎた状態に戻ることはないか。」という問いに答えて、「シリコンバレーでは常に起業家の世界を変えたいという欲求と、金持ちになりたいという欲望の2つがエンジンになってきた。一時期、金持ちになりたいという欲望が強くなりすぎてバランスを失った。でも今回の株式市場の調整でそんなに簡単に金持ちになれないことが分かり、金だけを目当てにしていた人々は去った。バランスは戻ったと思う」と答えている。 そして最後に後日談。この日経産業新聞の記事を読んだ後でポールに会った私は、影木さんのインタビューを読んだよ、あのジョークはなかなか面白かった、とポールに伝えた。ポールは嬉しそうに笑いながらも、「僕のジョークはちゃんとジョークだと日本の読者にわかってもらえただろうか」とちょっと心配そうな顔で私に尋ねた。「ちゃんと(笑)マークが入っていたから大丈夫。さすがに真に受けたまじめな人はいないと思うよ」と私は答えた。 ■
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