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グーグルはいつEXITできるのか

2001年4月23日[BizTech eBusiness]より

 米グーグルほどの会社がもしEXIT(株式を公開または自社売却すること)できないようだと、シリコンバレーやネット産業のこれからは信じられないほど厳しい。

 そう強く思う。

 その意味で、グーグルがこれからどうなるのかを見つめることの重要性は、どれだけ強調しても、し過ぎることはないだろう。

 私は、「ネットバブル崩壊後の世界がどうなるのかについての結論は、マクロの議論からは導かれない。未公開有望ベンチャー・公開直前300社(別にそういうリストが存在するわけではないのだが)が、2001年をどう過ごすのかというミクロなことの集積にすべてがかかっているというのが、私の皮膚感覚である。」と日経パソコン3月5日号「マクロで行くか、ミクロに行くか」で書いた。今回はより具体的な会社、グーグルを例に挙げて、ネットバブル崩壊後のシリコンバレーを考えてみたい。

 一言で言えば、グーグルというのは、インターネットの世界で最も本質的な技術の一つである「検索エンジン」という領域で、世界一の技術を持つベンチャー企業である。既にこの領域では「ワン・アンド・オンリー」への道をひた走り、その地歩を固めつつある。

 技術的な詳細については、京都大学の馬場肇さんが書かれた「Google の秘密 - PageRank 徹底解説」に詳しい。

 馬場さんは、この論考の最終章「PageRank 技術はどれほどのものか」の中で、

『(グーグルの基礎技術の一つであるページ重要度の自動判定技術)PageRank 手法のすばらしい点は、「多くの良質なページから リンクされているページはやはり良質なページである」という、わかってしまえば簡単なアイデアを出したことにある。だがさらに言えば、本当にすばらしい点は、単に考えついただけでなくて、アイデアを定常状態遷移の確率分布で定式化し、その有効性を実証するために実際にインプリメントし、現実のフィールドでもうまく動作することを実地に証明したことにある。この全ての段階において成功をおさめたことこそが、真に称賛されてしかるべきものなのである。』

『仮想モデルで「できるはずだ」ということと、動くものを示して「ほらどうだ」ということの間には、天と地ほどの差があるのである。実際問題としても大規模疎行列を扱うこと自体、通常の手法では相当困難であり高度な専門技術を要することである。頭の中でなんとなく理解できることとそれを実現できることとの間には、絶対に埋めることの出来ない格差があることを銘記すべきだ。あまり軽々しく考えてはいけない。』

と書かれているが、全くその通りである。興味のある方は是非、この力のこもった長文の解説を読んでみてください。

 さて冒頭で、「グーグルほどの会社がEXITできないようだと厳しい」と書いたが、グーグルは98年設立。現在従業員200名。ビジネスウイークのインタビューに答えて、創業者でCEO(最高経営責任者)のラリー・ページは、

「We try to make it better and better every day. We have about 40 PhDs in computer science who make Google better, and a whole bunch of other technical people. So we're really investing to improve the search engine, and that has really paid off. We're serving over 70 million searches every day.」

と答えているが、200名の大半は技術者で、うち40名はコンピュータ科学のPhD(博士)で、彼らが日夜、検索エンジンの改良に没頭しているわけだ。

 一方で、同社のプレスリリースを見れば、世界中でグーグルの検索エンジンの採用が進んでいることがわかる。日本でも、ヤフー、NECのBIGLOBEニフティが採用した。また、グーグルではすでにiモード版も提供している。

 そしてこうした会社の場合、「ある程度順調に推移してきた段階で、ベテラン経営者をトップに据える」ということが非常に重要なのだが、これ以上ないだろうという人を得た。エリック・シュミットが会長に就任したからだ。

 サンノゼマーキュリーニュース紙によれば、シュミットは「Frankly, life is short. There are relatively few companies like Google in the industry.」(人生は短い。産業界にグーグルほどの会社はそうない)と語り、創業者の一人は「Eric is going to be parental supervision」と強い信頼を寄せている。

 そしてグーグルを支えるのは、クライナー・パーキンス(Kleiner Perkins Caufield & Byers)セコイア(Sequoia Capital)をはじめとする、シリコンバレーの超一流の投資家たちである。

 簡単に総括すれば、技術(領域の意味と秀逸さ)、人材、経営者、投資家、事業開発の進展度合いから考えて、グーグルという会社は、バブル崩壊前ならばもうとっくに株式公開(IPO)できて、株価が高騰していただろうということだ。

 そこで本題に戻るわけだが、今シリコンバレーは、バブル崩壊の反省から、「未公開段階できちんと利益の見込める会社にしてからでないと公開できない」という新しいルール(参照「ネット産業第2ラウンドの行方は?」)で動いている。

 グーグルの従業員が既に200名ということは、月にかかる経費は数億円規模と推定されるから、どれだけグーグルの可能性が大きく、技術が素晴らしくても、それほど悠長に構えてはいられないのも事実なのである。

 またこれだけ賭け金が上がってくる(投資総額が大きくなる)と、中途半端なEXITでは、関係者は誰も満足しないだろうから、大型IPOか巨額買収を目指して大きな勝負を続けていくに違いない。

 果たしてグーグルはいつEXITできるだろう。その答えが見える頃に、ネットバブル崩壊の意味が、より明瞭になってくることと考えられる。

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