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CEOとマネジメント・チーム 1997年11月1日[コンセンサス]より
ゴードン・ベルのベンチャー企業評価手法 その彼が、これまでの経験をもとに開発したベンチャー企業の評価手法があるので、ここにご紹介しよう。ただページ数の制約から、微に入り細に入り、この手法の解説をするわけではないので、興味のある方は、ゴードン個人のホームページにアクセスするか、彼の著書「High-tech Ventures」(世界最大のインターネット書店・amazon.comで注文すれば簡単に手に入る)をご参照いただきたい。 日本でも「ベンチャー企業育成」が叫ばれ、「第3次ベンチャー・ブーム」とまで言われているそうだが、ゴードンの経験から必ずや何か学ぶところがあるに違いない。
12の評価軸とベンチャー成長5段階 すべての段階で、「失敗して終了」という経路があり得る。「終了」の基準は、ただ一つ、資金が続かなくなることだ。たとえばベンチャー・キャピタリストは、それまでずっと資金を投入してきたとしても、ある段階で投資先ベンチャーに見込みがないと判断すれば、それ以上投資することはない。泥沼にはまるようなことは避けようとするからだ。ベンチャー・キャピタリストにとって、この判断力が最も大切なスキルであることは言うまでもない。その意味では、このゴードンの評価手法には、シリコンバレーのベンチャー企業育成や、ベンチャー・キャピタリストの判断基準などのエッセンスが含まれていると言ってもいいわけだ。 そしてこのそれぞれの成長段階によって、ベンチャー企業の評価基準は大きく変わってくるというのが、この手法の背景にあるゴードンの考え方なのである。
ではベンチャー企業の何を評価するのか。ゴードンは、12の評価軸を提案している。技術・エンジニアリング、製品開発、製造(以上3つは、製品関連)、ビジネスプラン、マーケティング、販売(以上3つは、市場関連)、コントロール、資金調達、現金(以上3つが資金・管理関連)、CEO、マネジメント・チーム、取締役会(以上3つが人関連)である。 時間軸としては成長の五段階、評価軸としての12分野、その組み合わせのそれぞれに対するトータル1,000以上の質問群という形のノウハウとして、彼の経験が蓄積されている。そしてベンチャー企業の評価を依頼されると、対象となるベンチャーにとって適切な質問群を選び出して、ベンチャー企業のトップたちに対してそれらの質問を浴びせ、その回答から情報を得て評価するというのが、彼の方法論である。
People, People, People ゴードンは私によくそう言う。12の評価軸のうち、最後の三つ、CEO、マネジメント・チーム、取締役会のことである。中でも特に、CEOとマネジメント・チームが重要だと言う。 すべての成長段階に共通して求められるCEOの資質として、ゴードンは5つのチェックポイントを置いている。第1に「知力とエネルギー」。問題解決の優先度と会社の方向性をセットできるに足る知力、会社を引っ張っていくために必要なスタミナとコミットメントがまず大切だ。第2に「清廉性、正直さ」。第3に「開放性」。誰からの提案でも常に受け入れる準備があり、自分の強さや弱さについてもオープンにした正直なリーダーがいい。第4に「チーム構築能力と任せることのできる能力」。CEOがチームを作り、動機付けをして、大事なことを任せながら、引っ張っていくことができなければならない。そして第5に「エゴと謙虚さ」。エゴは過剰であってもまずいが、全くないのも困る。そしてそれに謙虚さ。自社の強み、弱みを明確に把握して冷静に語れるかどうかで、CEOの謙虚さは判断できるのだそうだ。 ただ、成長段階によって、この資質にも優先度が付く。コンセプト段階からシード段階を経て製品開発段階へと突き進んでいく間は、たとえば技術指向のエネルギッシュなエゴの強い創業者が、強烈な個性で会社を引っ張っていき成功することは多い。
「でも、その後の成長には、この五つの資質を兼ね備えたようなCEOがどうしても必要なんだよ。」 たとえば、インターネット検索サービス分野で急成長を続けるYahoo!社の場合も、創業者の二人、つまりスタンフォード大学院在学中に創業したジェリー・ヤンとデビッド・ファイロは、今、「Chief Yahoo!」というCTOに当たるポジションにおり、実際に経営にあたるCEOは、ティム・クーグルという男が後からやって来た。 「従業員の数が増えて教育、人事、管理の仕事が増えてくると、新しいCEOを探すことが最優先課題となった。といってもヤンとファイロがヤフーへの関与を減らすつもりだったわけではない。ふたりとも、ヤフーが急速に大きくなりそうだとわかっており、自分たちには大きな会社を経営する能力があると思っていなかった。もちろん、セコイアの投資家も同じ考えだった。」(「インターネット激動の1,000日 [下]」(日経BP社刊)より引用、セコイアはYahoo!社に投資するベンチャー・キャピタル: 筆者注) そしてCEOに加えてもう一つ重要なのが、マネジメント・チーム。経営者の実質的チームである。 「マネジメント・チームは木のようなものさ。」 ゴードンは少し詩的に言う。 「相互の尊敬と共通ゴールの認識が、根っこの部分になければね。そして、コミュニケーションがきちんと幹を流れなければならないんだ。」 そしてもう一つ、とゴードンは付け加える。 「管理指向(Management-oriented)でなく、行動指向(Do-oriented)の人たちのチームでないと駄目だね。大きな会社で言う、ラインとスタッフなんてものを分けたら絶対にうまくいかないよ。」
日本のベンチャーについて考える 日米ベンチャー環境比較については、制度面では、株式市場、ストックオプション、ベンチャー・キャピタルなど、カルチャー・教育面では、失敗を容認せず成功を賞賛しない風土や創造性を大切にしない教育の在り方など、経済面では、大企業を中心とした経済システムなど、さまざまなことがもう既に、多くの識者によって語られている。 私が最近感じるのは、もう少し実践的なところで、「人材の流動性」をどう考えるかということである。図に2つのベンチャー企業のマネジメント・チームの例を掲げたが、色々な会社で経営者の1人だった人が、これだけ流動していることが実感できると思う。理念的な話ではなく、実際に、これだけの人たちが、もともと勤めていた会社を辞めてベンチャー企業に移ってもらわないと、成功に必要不可欠な「優れたCEOやマネジメント・チーム」はいつになっても得られないという、単純な話なのである。読者の方々の1人1人が、 「さぁ、会社を辞めて、生まれたばかりのベンチャー企業に移って何年間か頑張ってみよう、そんな気持ちに、自分はなぜならないのだろう?」 という設問を考えることから議論を出発する必要があるのではないかと思う。 日本に人材が居ないのではなくて、「人材が流動しない」システムの方に問題があると私は思う。もっとカジュアルに、一人一人が個人として流動していけるためには、どんな改革がなされなければならないのだろう。そんな観点が、日本のベンチャーを考える上で、重要である。ゴードン・ベルの主張する「ベンチャー成功の鍵」には、創業者以外の「優れたCEOやマネジメント・チーム」が外から調達できることが前提となっているからである。
Yahoo!社のマネジメント・チーム
Netscape社のマネジメント・チーム
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