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99年「eクリスマス」熱狂の後で…
2000年は巨大な新旧業界再編の年

2000年1月24日[日経ビジネス]より

 1999年末の米国の「2回目のeクリスマス」を一言で総括すれば、「6週間で1兆円弱を売り上げるネット販売という新事業機会をめぐって、新旧勢力入り乱れての採算度外視の顧客獲得競争が起こり、勝ち残った企業の中にも、こんなことを永久に続けるわけにはいかないなという気分を生み出したeクリスマス」と言えるだろう。

 eクリスマスでもダントツの集客力を示したのは新興ネット企業最大手アマゾン・ドット・コムだ。同社は年明け早々、eクリスマス期を含む第4四半期(10〜12月)も赤字決算であること、大幅売り上げ増(前年同時期の2億5300万ドルから6億5000万ドルへと2.5倍以上の伸び)はあったが、赤字幅減少につながらないと発表。アマゾン株は1日で14%下落した。

先行逃げ切りのゴールはあるのか
 ソフトバンク・孫正義社長はインタビューに答えて、アマゾンについてこんなふうにコメントしている。

 「米アマゾン・ドット・コムは予想を上回る赤字を出し続けながら、時価総額を増やしている。借り入れはほとんどなく、直接資本市場を最大限活用して、先行逃げ切りの投資を進めている。従来の日本では考えられない経営モデルだが、これは決してギャンブルではない」(1月4日付日本経済新聞)

 このeクリスマスを機に私が問題提起しておきたいのは、この「先行逃げ切り」という概念についてである。競馬になぞらえて「逃げ切り」という言葉を使うのだとすれば、必ずゴールがイメージされているはずだが、そのゴールとは何で、果たしていつやってくるのかという問題である。

 ネット株高騰の論理は、「旧産業が叩き壊されて新しい秩序が生まれるとともに創出される新しい富は巨大」「今は寡占構造を目指しての体力勝負が続くが、あるカテゴリーで寡占構造がいずれ生まれれば、収穫逓増の法則が働き、超高収益の覇者が生まれるはず」という思想に基づいてきた。

 つまり「先行逃げ切りのゴール」とは、少し前までは「あるカテゴリーでの寡占」であったのだ。しかし2回目のeクリスマスの熱狂がもたらした不安は、「あるカテゴリーでの寡占」など小規模では決して起こらず、過当競争激化の中「まだ見ぬいつか」を皆が夢見ながら、カテゴリー統合や新カテゴリー創出が繰り返される果てしない競争が、これからも相当長く続いていくのではないかという予感である。

覇者の楽園か? 地獄の消耗戦か?
 この競争の行き着く先が、「収穫逓増モデルの恩恵にあずかる新しい覇者たちの楽園」なのか、はたまた「競争の果てに消費者以外のすべてが疲弊した地獄絵」なのか。これが、今のところ世界中で誰も正解を持っていないキー・クエスチョンのように思える。

 eクリスマス後の米ネット産業の新しい大きな動きは、その正解を求めての大企業ならではの「勝ち残り仮説」なのだ。年明け早々に届いたAOL―タイム・ワーナー合併の大ニュースも同じ文脈で理解すべきであろう。2000年米ネットビジネスのキーワードは、「想像を超えた巨大規模での新旧業界再編」となるに違いない。

掲載時のコメント:高値を付ける日本のネット株について、「ベンチャー企業創成に向けた動きに水を差す意図はないが、バブル懸念含みの米ネット株以上に理由なき高騰が生まれている」と危惧する。

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