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もしソフトバンクが米国で上場したら 2000年2月21日[日経ビジネス]より
「もしソフトバンクが米国で上場していたら何が起きていたか」という架空の設問を置くことで、ネット革命を支えるプラットホーム(土台)の日米比較を試みたい。 1995年から96年にかけて、米国で有望ネットベンチャーに投資した投資家の中には、1000億円規模の余剰資金を手にする者たちが現れた。ベンチャーキャピタルは、その余剰資金を現金の形で出資者と経営者に配分してしまったが、上場事業会社の中には、その資金をネットベンチャー群へ再投資する企業があった。再投資する際には戦略性を追求したため、資金の巨大さと戦略性という2つの理由から、ベンチャーキャピタルに比べて「全く違う価値を創出する投資会社」となり、もともとやっていた「事業会社としての価値」など吹き飛んでしまうほどの存在感を、投資会社として持つようになった。
「投資会社法」が目光らせる米国 しかしある時期から、この双子の兄弟は全く異なった歩みを始めることとなった。「投資会社法」(40年制定)という法律が米国には存在するゆえにCMGIには規制がかかり、同種の法律のない日本で上場するソフトバンクには規制が全くかからなかったからだ。 米国のこの「投資会社法」とは、「自社が保有する他社公開株式(50%未満保有)の時価が自社総資産(時価)の40%を超えた場合、その会社は投資会社と分類され、事業会社としての上場はできなくなり、投資信託として登録されなければならない。投資信託による投資対象企業への経営関与は禁じられる」というものである。 CMGIはこの法律の適用を免れるために、つまり事業会社として上場を続けていくために、99年半ば頃から数千億円規模の大型買収(アルタビスタ、フライキャスト、アドナレッジ、アドフォースなど)によって自社資産を増やすことで事業会社としての色彩を強め、純粋投資会社の性格を薄めていく方向に向かったのである。 一方同時期にソフトバンクは、純粋投資会社的性格をますます強め、「50%未満保有の他社株の時価総額を極大化する」という戦略を鮮明にした。世界中に大型ベンチャー投資ファンドを用意し、孫正義社長はこの投資会社的経営手法にますますの自信を深めつつ現在に至っている。
「バブルの2乗」を巧みに回避 また、60年も前にできたこの法律の思想にそこまでの意図はなかったはずだが、「投資先ベンチャーのバブルによって投資会社そのものがバブル化する」という「バブルの2乗」的状況の出現は、この法律のおかげで巧みに回避されている。 いずれにせよ痛感するのは、バブル発生・格差拡大など本質的欠陥を内包する資本主義の弱点を補強する「時代に合ったプラットホーム(法律・市場整備、監視システムなど)」の重要性である。両刃の剣であるネット革命の日本での成功は、このプラットホームのデザインにかかっていると思う。 さて最後に、冒頭の設問に対する私の回答は、「ソフトバンクは投資信託化を受容せず、CMGI以上のスケールで大型事業会社の買収に乗り出していたはず」となる。どちらがよかったかは後世の判断を待つしかない。 ■ 掲載時のコメント:オールドエコノミーからニューエコノミーへの移行期にあるのが現在。「移行を支える社会のプラットホームがしっかりしていないと、経済全体が闇市のようになってしまう」と危惧している。
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