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ネット革命のインフラは誰のもの

2000年7月10日[日経ビジネス]より

 「ネット革命のインフラとは誰によってどのようなプロセスで作られ、最終的に誰によって所有されることになるのか」。こういう設問の置き方こそが、現代ネット産業を考える上で最も大切な視点ではないか。

 「ネット革命のインフラ」の詳細な設計図は誰も持っていない。あるのは様々な対立する仮説群のみ。我々は開けてしまったフロンティアの前で、壮大な試行錯誤を始めているのである。

 その意味で「フロンティアに強い米国」の思想は一貫している。フロンティアの最先端はリスクが高すぎるから、「リスクを覚悟したやり方」(リスクマネーとベンチャービジネスとナスダック)にすべて任せる。「ネット革命のインフラ」は「試行錯誤の勝ち抜き戦」という淘汰のプロセスを経て作られるのが、社会的に最も効率が良いという考え方である。私はこの思想こそが米国ニューエコノミーの本質だと考えている。

リスク感覚の緩みがバブル招いた
 しかし1998年から99年にかけて、この「淘汰のプロセスの厳しさ」に対して楽観ムードが漂ってしまった。ネット革命の可能性に酔ったリスクマネー供給者たちの「リスクを覚悟する程度」が甘くなったことが、資金流入量の増加を招き、4月に弾けたネットバブル(1)(4)の原因となったのだ。

 では冒頭の設問の後半部分、「淘汰のプロセス」を経て途中までできた「ネット革命のインフラ」は、その後誰によって所有されることで社会に定着していくべきなのか。この問いに対する1つの仮説が、アメリカ・オンライン(AOL)とタイム・ワーナーの合併であった(2)。そこから先は「卓越した経営力を持った超一流企業」が担当しますよという仮説である。NTTコミュニケーションズによるベリオ買収(7)もこの文脈で理解すればよい。ただこの仮説における「超一流企業の卓越した経営力」という前提条件が崩れれば、たちまち「新しいバブル」が弾け、再び「新しい仮説」が提示されるのだろう。

 そんな今、「卓越した経営力」を誇るビル・ゲイツは、これからが自分の出番だと信じているはずだ。その時期に出された分割命令(3)に、彼がおとなしく従うわけがないのである。

 このような混沌としたプロセスでネット革命が激しく進行するから、実社会との軋轢が本格化しても何の不思議もない(10)。「ネット社会の新しいルール作り」は「10年の計」なのである。

2000年下半期の見どころは
 米国の激しさに比べれば、同時期に日本で崩壊したバブル(5)は「ネットバブル」と呼ぶべくもない未成熟なものだ。楽天(6)やマネックス証券といった日本の本格ベンチャーが、これから数年かけて「期待という名の時価総額」を大きく膨らませていくまで、「ネットバブル」という言葉は大切にとっておいた方がいい。

 2000年下半期の見どころとしては、ナップスター(8)とトランスメタ(9)を挙げておこう。こうしたイノベーションが枯渇するまで、米国ニューエコノミー現象は継続していくに違いない。

2000年上半期、情報技術・ネット産業10大ニュース
(1)「過当競争の99年eクリスマス」がネット産業不安の引き金に(1月)
(2)AOLとタイム・ワーナー合併(1月)。リアル企業とサイバー企業統合の始まり
(3)マイクロソフトに激震。ゲイツCEO退任(1月)、独禁法訴訟一審敗訴(4月)、分割命令から控訴へ(6月)
(4)米国ネットバブル崩壊(4月)。しかし起業家主導型経済は揺るがず
(5)日本は「ソフトバンクの投資会社バブル」「光通信のオールドエコノミーバブル」「マザーズ上場銘柄のマザーズバブル」という、ネットバブル以前の「3つのバブル」が崩壊(2〜6月)
(6)楽天(99年度売上高6億円)が店頭公開で468億円調達(4月)。ナスダック・ジャパン始動(6月)
(7)NTTコミュニケーションズによる米ネット企業・ベリオの現金55億ドルでの買収(5月)
(8)コンテンツ産業の根底を揺るがすナップスターの勃興(通期)
(9)トランスメタ社の「クルーソー」チップ登場。「After PC」時代のインテルを目指す活発な動き(通期)
(10)ビジネスモデル特許、プライバシー侵害、ネット課税、デジタルデバイド、セキュリティー対策など「ネット社会の新しいルール作り」が本格化。情報技術(IT)革命が政治課題に(通期)

掲載時のコメント:ネット革命のインフラ生成プロセスは国によって異なる。「効率の良いフロンティア開拓プロセスを持つ米国とそれを持たない国々」という構図が「国の競争力」を決めるのではと言う。

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