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技術ベンチャーに回帰する巨額資金
比類なき社会システムが米国に誕生

2001年3月5日[日経ビジネス]より

 問題:1995年が54億ドル。2000年が1030億ドル。たった5年で5000億円レベルから10兆円レベルへと、約20倍に膨れ上がったこの数字は何を表しているのでしょう。

 正解:米国における1年間のベンチャー投資総額です。

 最近発表された「2000年の1030億ドル」というこの数字は、ネットバブルの熱狂の大きさと、バブル崩壊後もその熱狂がしばらく冷めやらなかったことを如実に表しているが、本質的に重要な2つの変化が水面下で進行していることを忘れてはならない。

(1) 2000年の数字は異常値としても、その半分、つまり年間500億ドル前後のベンチャー投資は新しい常識として定着しそうだ。

(2) ネットバブルの反省から、ビジネスモデルに依拠したベンチャーではなく、優れた技術を持つベンチャーへの投資が、これからは中心となるというコンセンサスがほぼできた。

投資額10倍、技術力を重視
 最近のシリコンバレーでは、「基本に戻れ」、つまり「斬新な技術を創り出すベンチャーこそが重要なのだという価値観に戻れ」とよく語られる。ただ現実にはベンチャー投資額の常識を10倍に増やしたうえで「基本に戻る」のが、米国のこれからなのである。

 事実、つい最近も、私のよく知る、光通信関係の斬新な技術コンセプトを持つベンチャーが、製品開発のために約1億ドルの投資を受けた。年間ベンチャー投資総額が数十億ドル規模だった頃には想像できなかった巨額の投資を受け、このベンチャーの製品開発はすさまじい勢いで進行中だ。

 ところで、優れた新技術が生まれてから、その技術が大きく花開き、社会に根づいて経済成長に貢献するまでには、勝負所が2回ある。

 「第1の勝負所」は、その技術を核にした製品の開発が、かなりの人とカネをかけ、ぐっとスケールアップして、一気に行われることである。そして「第2の勝負所」は、その製品の優秀性が証明された瞬間から、その領域での世界制覇を志向した戦略展開が大規模かつダイナミックに行われていくことである。

 米国では、ネットブーム発生からネットバブル崩壊までのプロセスで、(1)世界中のカネをベンチャー投資の形で米国に集め、ベンチャー投資総額が一挙に10倍に増えた(2)ベンチャーにやられてしまうという危機感から、米国大企業がベンチャー買収戦略の執行に慣れ、買収後マネジメントのノウハウを身につけて自信を深め、強くなった――という2つの現象が起きた。

「2つの勝負所」の克服法見えた
 これらがそれぞれ、技術開花のための「2つの勝負所」とうまく呼応したことで、かつてないほどに強靭な社会システムが、米国という「場」にできあがりつつあるということなのだ。つまり、増額された米国ベンチャー投資の多くが、この「第1の勝負所」に注ぎ込まれる原資となるということであり、厳しい淘汰の末に生き残った技術ベンチャーが、前回の本欄「"米IT産業の今年のキーワード、「有料化」と「強い寡占大企業」"」でも少し触れた「強い米国寡占大企業」に買収されることで「第2の勝負所」を克服していくシナリオが見えたということなのである。

 そしてこの社会システムは、単に情報技術(IT)分野のみならず、バイオテクノロジーの世界をはじめ、新しい科学技術フロンティア領域にもそのまま応用可能である。米国の高等教育と研究開発の水準が世界一で、潤沢な国家予算も注ぎ込まれ、世界中の才能を引きつけて独り占めしていることはよく知られている。しかし、その後工程とでもいうべき精緻な社会システムが、米国にのみ生まれつつあることの意味については、まだ十分な研究が行われていない。これは、21世紀の「国の国際競争力」という視点から真剣に議論されなければならない重要課題の1つだと思う。

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