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株価下落をこれ幸いにリストラ
米企業が示すIT革命の過酷な本質

2001年4月2日[日経ビジネス]より

 ダウ平均、米店頭株式市場(ナスダック)総合指数の下落とともに、米大企業の人員削減が急を告げてきた。シスコシステムズが8000人、インテルが5000人、モトローラが1万2000人、デルコンピュータが1700人。PER(株価収益率)の調整で株価こそ下落しているものの、実体は高収益の「寡占の強者」である各社にとって、米国経済失速は、やりたくて仕方なかった人員削減の「格好の口実」である。

 大企業が情報技術(IT)化を徹底的に推進すれば、販売、サービス、管理部門の人員を大幅削減できるというのは常識である。不況時こそライバルを蹴落として寡占構造を強化できる絶好の機会というのも常識だから、各社とも今だからやりやすい人員削減を思いきりやって勝負に出てくるのは当然なのである。米ゼネラル・エレクトリック(GE)のIT化によるコスト削減効果試算は約1兆円とのことであるが、それは約8万人の人員削減とセットになって初めて達成される数字だ。

大量の余剰人員が出るのは必然
 さらに、IT化は産業構造全体の効率化をも促進するから、既存産業から大量の余剰人員が出るのも必然。産業人口シフトが激しく起こることが容易に想像されるからこそ、産業革命になぞらえてIT革命と称し得るのである。

 ところで失速した米国経済の再建は、(1)政府によるマクロ経済政策(2)企業各社の株価回復への真摯な努力(3)プライベート・エクイティ・ファンドからのリスクマネーを引き込んでの新しい企業群の創出――という3本柱で進むだろう。ここで真に議論されなければならないのは、(2)の過程で企業からいったん吐き出されるであろう雇用が、果たして(3)によって吸収され得るのかという問題なのだと私は考える。

 前回の本欄「技術ベンチャーに回帰する巨額資金」で、巨額資金が技術ベンチャーに回帰していることについて述べたが、こうした技術ベンチャーが初期に生み出す雇用は、才能溢れる若者と特殊スキルを持った「選ばれた人たち」だけである。社会全体のIT化が進むとともに、製造を含む大半の機能が容易にアウトソースできるようになったからだ。天才の比率が各国人口に比例するかどうかはともかく、人口の多い中国やインドのトップクラスの人材がシリコンバレーで活躍する姿は、IT革命後の企業社会の姿を暗示しているのだろう。

 また、いったんプライベート・エクイティ・ファンドからリスクマネーを入れてしまえば、その新しい企業の経営は通常の公開企業以上の厳しさで行われることになる。一部の人はともかく、(2)の過程で社会に吐き出された雇用の大半が、より厳しい環境にすんなりとフィットしていくと考えるのは楽観的すぎるだろう。

日本の「IT革命による救国」は甘い
 1995年から2000年まで米国を覆っていた陶酔感は、今も続くバブル崩壊過程で吹き飛び、IT革命の厳しい本質が姿を現し始めたのだ。世界に先駆けてIT革命のフロンティアを疾走する米国の姿は、思いがけない未来を我々に垣間見せてくれている。

 昨年から日本を覆う「IT革命による救国」というコンセプトは、バラ色の未来を安直にもたらすのではなく、過酷な競争社会への覚悟を我々に強いるはずだ。一人ひとりが相当の決意を持って、世界を意識しながら自己研鑚に励み、主体的に強く生きていくことが「IT革命による救国」の大前提として不可欠なのである。しかし、そのことが、日本ではあまり正しくアナウンスされていない。

 米国経済再建3本柱の執行は、IT革命に正攻法で立ち向かうゆえ、苦しいプロセスである。多くの識者が想像するよりも、その完遂には時間がかかるかもしれないとも思う。しかし、このプロセスを経たうえで、仮に米国経済だけが立ち直る時が来るとすれば、その時こそ「米国の独り勝ち」現象が完成する時となることだろう。

掲載時のコメント:米連邦高裁が下したナップスターの著作権侵害判断に対し、「恐ろしく頭のいい連中が激憤しているだけに、よりアナーキーな無料音楽交換の仕組みが生まれそうな雰囲気」を感じている。

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