|
|
スピード調整に邁進する米経営者 2001年9月3日[日経ビジネス]より
米国経済のこれからは、消費者の自信喪失ゆえの「消費の冷え込み」が本格化してしまうまでに、経済全体の調整に道筋がつくかどうかにかかってきた。米国経済界には「スピード調整」を是とする風が吹き、企業経営者はその方向で全力疾走している。ただ、全力疾走しても、果たして本当に間に合うのか。米国経済はそんなギリギリの局面を迎えているように思う。 日本でも「構造改革」が叫ばれ、経済全体の調整が進み始めてはいるが、こと調整となると、そのスピード感は日米でかなり違う。
過去の失敗免責したシスコ取締役会 しかしこの2点は、あくまでも道具立ての問題である。日米の真の差は、米国企業経営者がこうした道具をフル活用して迅速な調整に邁進できるという事実にあり、それは米国の企業統治(コーポレートガバナンス)が機能しているゆえであると、私は思う。 例えば米シスコシステムズは、2001年7月期決算で上場以来初の最終赤字10億ドルを計上(21億ドルの在庫評価損と12億ドルのリストラ関連費用を含む)した。同社最高経営責任者(CEO)のジョン・チェンバースは「どれほど速く深い谷がやってくるか我々経営陣は見誤った」と経営の失敗を認めつつ、調整に邁進していく経営の姿勢を明確にしている。 ここで重要なのは、社外取締役が過半数を占める同社取締役会が、「調整に邁進するチェンバース」を支持しているという事実である。好況時におけるCEOの評価基準は「強気の急成長路線を走る経営執行力」だったに違いないが、今はその評価基準を「調整スピード」へと取締役会が一変させたわけだ。経営のルールを一変させ、過去に行われた失敗についてはその時点で「免責」としたうえで、同じチェンバースという人物に経営を任せるという意思を、取締役会が明確にしているということである。 一方、日本企業の場合、好況から不況へと事業環境が激変する中で続投する社長は、「世間」という曖昧な対象に対する「責任」を、過去にさかのぼりつつ常に忖度しながら、経営に許されるであろう調整スピードを決める。 いずれ解決しなければならない問題を、どの期にどういうスピードで処理するのか。問題を先送りするのか、今、すべて処理するのか。 身内が大半を占めるゆえ、取締役会が信認するという事実にはあまり意味がないので、調整スピードの設定という最も大切な経営意思が「社長の頭の中」という「究極の密室」の中で、実は決められるのである。
世間体を意識し過ぎる日本の経営者 たとえ自らの瑕疵ゆえに抱え込んだ問題であっても、取締役会という後ろ盾があるため、後顧の憂いなく調整に邁進できる米国企業経営者の精神的負担は、様々な制約の中で真剣に調整に取り組む日本企業の社長のそれよりも間違いなく小さい。 何という違いだろうと思う。 米国流株主志向経営への違和感は持ちながらも、日本の企業統治が今のままでは、日本が「構造改革の時代」を乗り切っていくことは至難の業だ、そう痛感する昨今である。 ■ 掲載時のコメント:『シリコンバレーは私をどう変えたか』(新潮社)を出版。「ネットバブル生成から崩壊に至る大きな流れ を中心に、本欄よりも軟らかい文章で」7年間のシリコンバレー経験を綴った。
|
||
ページ先頭へ | ||
Home > The Archives > 日経ビジネス |
© 2002 Umeda Mochio. All rights reserved. |