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「IT後」のシリコンバレーの役割
2002年2月25日[日経ビジネス]より
シリコンバレーは情報技術(IT)革命における歴史的役割を終えたのではないか。 無論、IT産業の市場規模は巨大だし、これからの成長性も高い。ITバブルは弾けたけれど、IT革命はまだ道半ばである。しかし、1995年頃から世界中がドッグイヤー(7倍速)でITに関わる技術開発と新市場創造を続けてきたため、同時にすさまじいスピードで、技術や新市場についての知識や能力が世界中に拡散してしまったのである。 そして今やITは、各国ごと、顧客ごとの特性に合わせた応用的発展の時代に入った。利用技術、文化・慣習との接点領域にこそイノベーションのタネが多く存在するようになり、世界中がレベルアップしたため、シリコンバレーの相対的優位は確実に劣化した。 「IT産業にこれから新しい巨大企業はもう生まれない。自動車産業が歩んできた道で言えば、現在の自動車産業構造に落ち着く直前の状態に極めて近い」とは米オラクルのラリー・エリソン最高経営責任者(CEO)の最近の言葉である。現時点でロードマップを書くことができるほぼすべてのITイノベーションが、現在の産業構造の中で吸収可能になったという意味なのであろう。IT産業は先端技術を必要とする巨大成熟産業への入り口に、もう差しかかっているのかもしれない。 2015年くらいから現在を振り返った時、21世紀初頭のシリコンバレーの役割はどこにあったと総括されていることだろうか。巨大だが成熟化していくIT産業における研究開発拠点という役割はもちろん相変わらず続くだろうが、それだけではシリコンバレーの役割は過小と言わざるを得ない。 シリコンバレーは、基礎研究によってブレークスルーを生み出すキャピタル(中心地)ではない。これは世界中の研究拠点が担う役割である。シリコンバレーがほかの地域に比べて圧倒的優位を発揮するのは「ある技術が基礎研究の域を超え、そのインパクトの大きさは直感できるようになったが、商用化の課題が難しすぎたり、応用領域がいまだ具体性をもって分からないため、ほかの地域や大企業が大型投資に二の足を踏む段階」にある時である。
生命と物質の解明の応用へ 日本もこの領域ならば、人材の厚みや経験の蓄積において決して負けてはいない。しかし逆にそれだからこそ、これまでとは違う意味で、日本とシリコンバレーとが競争したり協調したりする必要に直面してこよう。 企業の創造と淘汰という手法を用いて、生命と物質の解明という最先端基礎研究の成果から巨大新産業を生み出すこと――。シリコンバレーの21世紀初頭における最大の役割はここにある、と予測しておきたい。 ■
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