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バブルの後遺症続くベンチャー投資

2002年9月2日[日経ビジネス]より

 米国のベンチャーキャピタル(VC)の投資額を四半期ごとに集計している全米ベンチャーキャピタル協会(NVCA)とトムソンベンチャーエコノミクスによれば、2002年4〜6月期のVC投資総額は57億ドルだった。

 IT(情報技術)バブル最盛期2000年の年間1023億ドル、四半期平均で256億ドルと比較すると、4分の1以下に激減した。投資額が減ったという現象をもって、「米国のベンチャービジネスは停滞している」という結論を導くのはたやすい。

 だが、四半期57億ドルという絶対額は、歴史的に見ても決して低い水準ではない。1995年には年間合計で57億ドル程度だったのである。本質的な問題はVC資金の需給関係が大きく崩れているということなのだ。2000年と2001年の2年間でVCが機関投資家から調達した資金は何と1380億ドル。このカネ余り状態が一体何をもたらすのだろうか。

ベンチャー弱める過剰投資
 それは、未公開ベンチャー企業への過剰投資である。バブル崩壊で多くのベンチャー(特にドットコム企業)が淘汰されて総投資額は減少した。しかし依然として巨額の余剰資金が投資先を求めているため、有望そうな技術を持つベンチャーには投資が集中する。

 現代の経済は、ある周期で技術革新が生まれることを前提として成り立っている。これをイノベーション経済と呼ぼう。そのためには、「まだ見ぬイノベーション」を生み出すために持続的かつ巨額の投資が必要になる。楽観的に見れば、リスクマネーがふんだんにあるということは、技術ベンチャーにとって十分な資金を確保できているということになる。米国経済を駆動してきたイノベーションとマネーの還流メカニズムは、その規模こそ縮小したものの依然として動き続けている。

 しかし、その一方で悲観的な見方もある。VC投資が急増した1999年頃からインターネットや通信、バイオ、ナノテクノロジーなどの注目技術にはほぼすべての分野で活発に投資が行われてきた。各技術領域で数十のベンチャー企業がひしめき合う熾烈な競争となったが、資金が枯渇してもVCが次から次へと追加投資したため、将来性の薄いベンチャーの淘汰が進まなかった。そうした状況はバブル崩壊後の今でも変わっていないというのだ。

 その結果、本当に有望な技術ベンチャーも過当競争に巻き込まれ消えていくことが少なくない、と筆者は考えている。技術ベンチャーを支える経済メカニズムとは本来、多産多死を前提としたものだが、度が過ぎれば、つまり有望なベンチャーも多く死んでしまうようだと、VCシステム全体が機能不全に陥りかねない。

今後は不確実性を前提に
 「いずれ景気が回復して株式市場が持ち直せば、ベンチャー企業から得られるリターンも再び大きくなる」という楽観的前提で過剰投資が行われている現状は、実はイノベーション経済の危機を示している。バブル期にはあたかも「確実な未来」が存在するかのような錯覚の中でマネーが動き回っていた。しかし、これからは不確実性を前提としたイノベーション経済の本来の姿を取り戻さなければならない。

 さて99年5月から3年4カ月続けてきた本誌への連載も今回で最終回。期せずして、ITバブル前夜から最盛期、そしてその崩壊プロセスでのポイントや問題点を、月1回のペースで米国西海岸の視点から報告する役回りとなった。狂騒の時代は過ぎ、回復への道のりは遠い。だが課題はほぼ出尽くして一段落、というのが現在の実感である。しばらく充電期間を置き、「まだ見ぬイノベーション」についてじっくり考えていきたい。

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