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すべては98年から始まった…
99年は、本格的なサービス競争時代の幕開けへ

1999年5月3日[日経ビジネス]より

 1998年という年は、情報技術産業における大きな節目であった。たった1年の間に次々と大切なことが起こり、それらが1つの奔流となって99年以降の「新しい大きな流れ」を創り出したのである。

 情報技術産業の歴史は、第1世代がメーンフレーム時代(50〜80年代)、第2世代がパソコン(PC)時代(80年代以降)、第3世代がネット時代(94年以降)と分類できる。

 98年の幕開けとなった「コンパック・コンピューターによるDEC買収」(下の表1)は、DECが持つ「顧客サービスのグローバルネットワーク」をコンパックが希求したゆえに実現し、第1世代の終焉を象徴する出来事であった。第1世代企業が生み出し蓄積した資産の中で新時代に活用可能なのは「顧客接点」のみであり、その接点を拠り所にした顧客サービス事業を軸に、彼らは新しい役割を果たしていくという方向が明確になった。IBMの目指す「普通の高収益企業」の姿はまさにここにある(10)。

 第1世代の覇者IBMのピークが83〜84年であったとすれば、第2世代の覇者マイクロソフトのピークが97〜98年だったと言えよう。独禁法違反裁判(7)、PC産業の変質(5)、基本ソフト無償化の流れ(4)の3点セットは、マイクロソフトを覇者の座から引きずりおろすことになるだろう。

パソコンはネットの単なる窓
 中でもPC産業の変質が非常に重要だ。「PCとはネットへの窓に過ぎない」と考える顧客が増えたことで、必要最低限の機能を持つ低価格PCへの需要が伸び、PC売れ筋価格帯が一気に下落した(5)。既にPC産業は、デルコンピュータが導入した「顧客対応・受注生産・直販モデル」のあおりを受け、低固定費構造でなければやっていけない事業に変貌してきたが、これでPCという製品自身で差別化するのも難しくなってきた。さらにこの思想を一歩先へ進めた試みとして、99年に入って「ネット企業によるPC無料配布」までが始まっている。

 98年、第3世代で最も衝撃的だったのは、第3世代の覇者を目指していたネットスケープ・コミュニケーションズの挫折である(2)(8)。新技術を引っさげて94年に登場しネット時代の扉を開いたネットスケープが、創業以来悩み続けてきたのは「どうやって金儲けをするのか」という基本命題であり、これは疾走を続ける同時代ネット企業群にも共通する根源的不安であった。

 しかし皮肉なことに、ネットスケープの挫折と時を同じくして、ネット時代の収益源が技術ではなく、「顧客から月極めで電話料金のように徴収するネット接続料金」と「広告収入」(3)と「eコマース収入」(9)であることがはっきりした。

 「何か得体の知れないパワーをネットが持っていることは誰もが認めながらも、ビジネスモデルが見えず不安だった時代」(94〜97年)がこうして終わり、ネット企業の本格的株高が始まったのである(6)。

 つまり98年という年は、情報技術産業・各世代の担い手たちすべてに対して、これからの「e革命・新時代」を生き抜く条件として、「技術よりも顧客」「製品でなくサービス」という2つの命題を突きつけることによって「新しい大きな流れ」を創ったのだ。

 しかも、「その流れの中で正しく早くやった者には大きな富を与え、少しでも時代認識を誤って動きが鈍い企業には市場から退場させる」という過激なメカニズムも導入され、それゆえに、膨大な事業機会を巡る壮絶な競争が、激しいスピード感の中で繰り広げられている。

1998年の情報技術産業の10大ニュース
1 コンパックがDECを買収(1月)
2 ネットスケープが赤字転落(1月)
3 ネット上で集客できれば巨額の広告収入が成立することがほぼ証明され、ポータルという言葉が生まれる(3〜5月)
4 無償基本ソフト(OS)・リナックスが彗星のごとく台頭。基本ソフトを無償で開発する仕組み・オープンソースに注目(5〜6月)
5 売れ筋PCの価格帯が下落。世界中のPCメーカーが苦境に。IBMもPC事業だけは1000億円以上の赤字(7〜12月)
6 ネット企業の株高が8月末ダウ暴落後の株式市場を牽引(9〜12月)
7 マイクロソフト独禁法違反裁判始まる(10月)
8 AOLがネットスケープを買収(11月)
9 普通の人が普通の製品を大量にネット上で買うeクリスマス(12月)
10 IBMは顧客サービス重視で高収益企業を志向。ネット企業の買収はせず。自社株を大量買い(通年)

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