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米のシステムダウン、大いなる挑戦の証
「e 革命インフラ」づくり急ピッチ、日本勢の姿はなく

1999年7月26日[日経ビジネス]より

 今年6月10日(木)午後7時半、ネット・オークションで急成長を続けるイーベイのシステムが機能停止に陥った。徹夜での原因究明が続けられたが、復旧したのは翌11日(金)午後5時半。約22時間の機能停止の影響は、売上高における数億円規模の損失だけでなく、週明け14日(月)の株価急落(約26%下落、時価総額約40億ドル分)という形で表れた。このとき、米国ネット企業群には大きな戦慄が走った。「我々のシステムは大丈夫なのか」と。

オープン系技術駆使しシステム構築
 アマゾン・ドット・コム、イーベイ、イートレードといった最先端をいくEコマース・サイトを支えるシステムは、数台のサーバーで構築できた初期の簡単なシステムから「複雑で巨大な情報設備」へと進化しつつある。この「複雑で巨大な情報設備」群は、既存の社会システムを置き換える新しい「e革命インフラ」と呼ぶことができる。ここで重要なポイントは、この「e革命インフラ」が、メーンフレーム(大型計算機)を使わず、すべてオープン系技術の組み合わせで構築されようとしていることだ。1987年のブラックマンデー以降、特に米国ではオープン系技術を組み合わせたクライアント・サーバー方式のシステムが一気に実用化され、高価なメーンフレームを置き換えてきた(ダウンサイジング)。しかし高性能・高信頼性のトランザクション処理を要求する金融機関の第3次オンラインなどの基幹システムにとって、オープン系技術はいかにも頼りなく、依然としてメーンフレームに依存してきた。

 つまり現在構築中の「e革命インフラ」とは、オープン系技術を駆使して、メーンフレーム以上の高性能・高信頼性システムを構築・運用するという歴史上初めての挑戦なのである。

 しかも、そのインフラは、熾烈なサービス充実競争に勝つために日々更新を続けて成長する「生き物」のようだ。

 先端ネット企業では週に数回、競合企業と自社のサービスを比較検討し、自社システムへの開発要求をまとめる作業が絶え間なく繰り返されている。サイト利用者数が急増し、サービス内容が充実しても性能を落とさないためには、システムを頻繁にアップグレードしなければならない。しかも対象顧客は世界だから24時間休む間もない。イーベイの機能停止によってネット企業群に戦慄が走ったのは、彼らがこんな苛酷な作業を続けているゆえだ。

 しかし高信頼性確保のために、今さらメーンフレーム回帰が起こるとは考えられない。サン・マイクロシステムズ、オラクル、マイクロソフト、ヒューレット・パッカード(HP)、ベンチャー企業群で働く現代コンピューター産業の叡智のほぼすべてが、オープン系技術による「e革命インフラ」実現に向けて振り向けられているのが、最先端技術開発の現実だからである。

 「e革命インフラ」という新需要が米国でのみ圧倒的に先行するため、米国と日本の差は、ここ数年でさらに際立ってきた。これは日本のコンピューター産業にとっての大きな不幸であり、大きな危機と言ってもよい。単に需要の有無が事業規模の問題だけに帰着できるのならば、需要が数年遅れで立ち上がれば何とかなる。しかし真の問題は、この需要を満足させる先端技術開発の現場に、日本企業の姿が見えないことだ。「22時間の機能停止が40億ドルの消失に結びつく」真剣勝負の場で、コンピューター産業始まって以来の挑戦が繰り広げられているのに、そこで何もしていない。その中で磨かれる基本ソフト技術、基本ソフトの利用技術、オープン系ソフトの統合技術、システムレベルでの高信頼性技術やスケールアップ技術、システム・インテグレーション技術など、次世代の戦略技術が米国企業にしか蓄積されていないのだ。数年後日本に本当のネット需要が生まれる時、果たして日本企業は「e革命インフラ」構築の担い手となれるのだろうか。日本のコンピューター産業は、60年代、70年代の産業勃興期に持ったと同様の危機感と情熱を今持たなければ、新時代を生き延びることはできないのである。

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