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ウェブ投資、日本企業は即10倍増やせ
100年に1度の産業革命期、日米でこんなに格差

1999年9月20日[日経ビジネス]より

 「日本もe革命へのムードはだいぶ盛り上がっていますよ」

 4カ月ぶりの日本出張は、日本の友人から受け取ったこんなメッセージを、私なりに検証する毎日でもあった。

 日本も変わりつつある。e革命前夜だ。はじめは私もそんな気持ちになった。しかしやっぱり何かが違う。日本に滞在するうち、「日米の違いで重要な何か」が議論からすっぽり抜け落ちているのではないかと、釈然としない気分が募っていった。

 そんな時、「ねぇ梅田さん、その金額は1桁大きすぎるんじゃないの?」という、ある日本企業経営者の言葉で、「釈然としない気分」の源泉が何であるかがはっきりと分かった。「その金額」とは、米企業のウェブサイトへの投資額のこと。つまり、ウェブにかける金についての常識が、1桁も日米では異なるのだ。この事実は重い。

 例えば、Eコマースを本格的に始めようと計画した米企業は、最低でも初年度数億円をウェブに投資するのが常識だ。しかし日本では、数百万から数千万円の範囲で投資を考えている企業がまだ圧倒的に多いようなのだ。

 売上高が数兆円もある日本の大企業が「ウェブの充実」と銘打って計上した予算が1000万円程度だったという「嘘のような本当の話」もいろいろなところで耳にした。

 「とにかくあればよい」「適当に機能しさえすればよい」という思想でウェブを構築するのなら、その程度の予算で十分だ。ウェブは極端な話、パソコンが1台あれば用意できるわけだから、安く作ろうとすればいくらでも安く作れるのである。

 しかしe革命が本格化している米国は、インターネットを100年に1度の産業革命ととらえ、ウェブ投資こそが情報化投資なのだという認識が1年ほど前から急激に高まってきた。

ウェブ投資には経営者の思想が必要
 どんな企業も、社会に対する窓として本格的ウェブを構築し、あらゆる情報システムは、ウェブを軸にする。特にEコマースを本気でやるのならば、百貨店やスーパーが店舗を作るのと同じように、顧客にとっての使いやすさを考えてウェブを構築する。「いずれはウェブが会社そのものとなってしまってもいい」というくらいの意気込みである。そんな意識の昂揚は、米国を全く新しい地平に導きつつある。

 例えばアマゾン・ドット・コムは、1995年の設立以来、累積で100億円近いウェブ投資を、Eコマース需要に先行して行ってきたからこそ、先駆者としてのブランドを確立したのだ。

 「アマゾン、アマゾンと皆が騒いでいるけれど、ウェブ投資の累積はたかだか100億円程度なんですか? 大した額じゃないんですね」

 一方で、こんなコメントを別の日本企業経営者から耳にした。

 確かに、100億円単位の大型投資を日常茶飯事とするトップからはそう見えるかもしれない。しかし「適当に機能する」ウェブならばパソコン1台で作れる時に、そこに10億、100億という金をつぎ込むには、何か超越したものを目指す思想らしきものが必要であろう。思想といって大仰ならば、時代認識と言い換えてもいい。

 「インターネットとは何なのか」という問いに対する明確な答えを、経営者はウェブ投資額という具体的で目に見える数字の形で示していかなければならないのである。

 最後に1つ提案がある。日本の大企業は目をつぶってでも、ただちにウェブ投資額を現在の10倍にすべきだ。その原資は、旧来型情報化投資額の一部を振り向ける形で構わない。日本企業の情報化投資の総額に問題があるというわけではないからだ。1000万円が1億円に、3000万円が3億円になった時、そのウェブ投資予算を正しく使う知恵が生まれ、技術開発が活性化され、日本のe革命も本格的第一歩を踏み出すことになるに違いない。

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