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米国ネット産業勃興を支える人たち
リスク取るシステムが社会に浸透

1999年10月25日[日経ビジネス]より

 一部企業の常識を超えた株高を含む米国ネット産業の勃興について、日本では「あれはバブル」と考え、そこで思考を停止してしまう人が多い。しかし世界経済を牽引する「米国経済の核」ともいえるインターネット革命とそれを支えるメカニズムを、バブルと言って片づけるのはやや短絡に過ぎる。

 超ハイリスク・超ハイリターンの新産業創造機会を目の前にした時、誰がどうリスクをシェアすべきか――この視点から、米国ネット産業の勃興を見つめる必要があると私は思う。

8種類のリスクテーカーたち
 「100年に1度のインパクト」(米連邦準備理事会のグリーンスパン議長)を伴うインターネット革命は、誰かが「半端でなく巨大なリスク」を負わなければ現実のものとならない。成功するかどうかわからないことに対して、ビジネスモデルがはっきりする前に、巨額の「資本」に加え、すぐれた技術やアイデア、大量の若くて優秀な頭脳、経営能力といった「脳本」的要素が投入されなければならない。

 その意味で、現在の米国インターネット革命は「超ハイリスク」を次の8種類のリスクテーカーたちがシェアするメカニズムによって支えられている。リスクテーカーたちの裾野がここ数年でぐっと広がり「社会レベルでの壮大なリスクシェアリング」が始まっているのである。そして、株式公開直後のベンチャー企業の発行株数内訳を見れば、このリスクテーカーたちに対し「成功時の超ハイリターン」が見事に分配されていることがわかる。

起業家(創業者):「100に3つ」の成功に賭け、とびきり優秀な若者たち(移民も含む)が頭脳と体力を酷使して「365日24時間」薄給で働く。
経営者:年俸数億円以上の大企業トップの職をなげうって、ネット企業トップに就任する経営者が急増している。年俸の株式比率が高く、彼らは現金収入の激減というリスクを取る。
一般社員:社員はあまねく株式を受け取り薄給で長時間働く。社員全員がリスクをシェアするメカニズムである。
ベンチャーキャピタル:起業家にとっての「返さなくてもよいカネ」を株式と引き換えに投資する。ベンチャー世界の古典的存在。少し前まではリスクマネーを提供する唯一の存在だった。
エンジェル:もともとエンジェルと言えば一握りの大金持ちを意味したが、今はちょっとした富裕層までが、数百万円から2000万〜3000万円単位のカネを、生まれたばかりのベンチャーに投資する。かなりの確率で丸損になるが、成功すれば50倍から100倍になって戻る。ちょっとした富裕層にとって「夢を見る」代償の投資である。

バブルは恒常的にはじけ吸収される
ベンチャーカタリスト:エンジェルにとっての資金が、ベンチャーカタリスト(カタリストは触媒の意)にとっての時間。つまり、経験豊富なビジネスマンが自分の時間を投資する(現金収入という意味では無報酬)代わりに、ベンチャーの株式を得る。
大企業:創業間もないベンチャーに投資し自社資源とのシナジーを追求するコーポレートベンチャリング戦略と、株式交換方式でベンチャー買収を行い新分野に進出する戦略は、現代米国大企業経営の常識となりつつある。
一般投資家:1995年8月のネットスケープ株式公開以来、規模が小さく利益が出ていないベンチャーでも「可能性さえ巨大なら株式公開できる」というルールが定着した。これは、「ミドルリスク・ミドルリターン」になった段階で、一般投資家にもリスクを取るチャンスが開かれたことを意味する。

 米国ネット産業に「バブル的要素」が含まれることは私も否定しない。しかしそのバブルは恒常的に少しずつはじけ、社会の隅々に浸透する個々のリスクという概念の中に、「小さな失敗」という形で、日々たくましく吸収されているのも事実なのである。

掲載時のコメント:シリコンバレーに活動の拠点を移して5年。インターネット革命の勃興をその震源地から見つめ続けてきた。「この経験は現在の私にとってかけがえのない財産となっている」という。

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