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ニューエコノミーへの信念が定着
99年情報技術・ネット産業を総括する

1999年12月20日[日経ビジネス]より

 1999年の情報技術・ネット産業を総括すれば、ポイントは4つに絞り込むことができる。

「100年に1度」の革命的現象
 第1は、インターネットを単なる技術的ツールと捉えるのは誤りで、「情報ネットワーク技術とグローバリゼーションによって既存の産業や社会の姿を一変させてしまう」化け物のような可能性を秘めた「100年に1度」の革命的現象、つまりニューエコノミーなのだという認識が、実感を伴いつつ米国社会を席巻したことである(9)。

 数年前からニューエコノミーという言葉が使われ始めてはいたが、言葉の正確な定義はともかくとして、今年は大半のアメリカ人の心の中に「どうやら全く新しいことが本当に始まったようだ」という信念が刷り込まれた年であったように思う。現在の株高にバブル的要素が含まれているのは十分に認めた上で、バブル崩壊が仮にあっても「もうオールドエコノミーに戻ることはない、盛り返す力もニューエコノミー側にしかあり得ない」と心から信ずるようになったのだ。

 ジャック・ウェルチのネット参入宣言に代表されるように、ネットとは縁のなかった既存大企業も真剣な取り組みを始めた(7)。ネット企業への投資に次ぐ投資によって有望ネット企業群を傘下に収める「インターネット投資会社」とも言うべき新しい形態の企業が登場し(10)、新時代の覇者を目指す戦いも激化の兆しを見せ始めた。

 第2は、このニューエコノミーを支える基盤としてのe革命インフラ構築競争が本格的にスタートしたことである。物理的通信インフラを持つ電話会社やCATV会社、放送系インフラやコンテンツ構築能力を持ったメディア企業、オンラインサービス企業やポータル、eコマースを事業展開するネット企業が、買収、合併、大型提携を相次いで発表し、21世紀の巨大インフラ事業の陣取り合戦を始めた(1)。しかし、このe革命インフラには思わぬ落とし穴があることも判明した(4)。金融・商取引といった高信頼性を要求されるシステムを支える新しいインフラ作りが、思いのほか難しいことがはっきりしてきたのである。

日本のインターネットも激変する
 第3は、米国発のこの大きな潮流が、とうとう日本にも本格的に波及してきたことである。起業家主導型経済に移行するための仕組み(5)が用意され始め、人々のネット活用の機運もぐっと高まってきた(8)。2000年、日本のインターネットシーンは大きく変貌を遂げるであろう。

 第4は、パソコン時代の終焉である。パソコンはインターネットへの窓に過ぎなくなるので高機能がいらなくなって低価格化が進行、無料配布という極端な事業モデルまで登場するに至った(2)。今後、マイクロソフト以外の基本ソフト(OS)を搭載したインターネット端末が次々と登場するポスト・パソコン時代がやってくる。マイクロソフトが情報技術産業全体の覇者として君臨した時代はついに終わったのである(3)(6)。

1999年の情報技術・ネット産業の10大ニュース
(1)e革命インフラ構築競争の始まり(通年)。ポータルめぐり巨額買収相次ぐ(1月)、MCIワールドコムによるスプリントン買収(10月)
(2)パソコン時代の終焉(通年)。パソコンを無料配布するネット事業の登場(2月)、NECが米パッカードベルを清算(11月)
(3)Linux台頭(通年)。レッドハット株式公開(8月)
(4)イーベイのシステムダウン(6月)、日本でもオンライン証券取引システムダウン相次ぐ(10〜12月)
(5)ナスダック・ジャパン構想(6月)とインターネットイニシアティブ(IIJ)の米国ナスダック株式公開(8月)
(6)マイクロソフト独禁法裁判で「独占」事実認定、マイクロソフト第一審事実上敗訴が決定(11月)
(7)米国既存大企業群のネット参入本格化(通年)、2回目の「eクリスマス」は新旧経営システムの対決(11〜12月)
(8)日本もついにネット元年の兆し、iモード爆発的普及(2〜12月)、通信料金定額制導入の方向が明確に(7〜12月)
(9)米国ネット産業の本格的興隆。株式公開ラッシュ(新規公開約200社、昨年の7倍強)。株式本位制、起業家主導型経済システムが米国全体を席巻、旧産業から人材がネット産業に流入(通年)
(10)日本ではソフトバンク(時価総額約7兆円)、米ではCMGI(時価総額約2兆円)、新時代の覇者を目指すインターネット投資会社の登場(通年)

掲載時のコメント:「去年の出来事と思っていたことが、つい春先の事件だったことを再認識し、愕然とした」と言う。米ネット社会を熟知する筆者にして、変化とスピードの激しさには「考え込んでしまう」。

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