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1月19日は「リーナスの会社」に注目
2000年1月10日[日経パソコン]より
今回はトランスメタ(Transmeta)という会社の話をしよう。 マイクロソフトの共同創業者、ポール・アレンと希代の投機家、ジョージ・ソロスが投資家としてバックについているうえ、Linuxの創始者、リーナス・トーバルズが一介のプログラマーとして働いている(彼は深夜、早朝、休日にLinux開発に携わる)という豪華キャストである。 どうやら重要特許の取得が完了したらしく、これまで何の情報も載っていなかった同社Webサイトには、次のような簡単なメッセージが掲載された。 「We rethought the microprocessor to create a whole new world of mobility. Arriving January 19th, 2000. The Crusoe Processor」(モバイルのまったく新しい世界を創造するために、我々はマイクロプロセッサーを根本から考え直しました。クルーソープロセッサーの全貌は2000年1月19日に明らかに) 何とも思わせぶりなメッセージだが、今クルーソーの謎の解明は、シリコンバレーのナード*たちが真剣に議論しているテーマの一つだ。ナードたちのコミュニティサイト、スラッシュドットで「Transmeta」をキーワードに検索してみるといい。膨大なメッセージのやり取りを垣間見ることができる。
夢の高速CPUを開発?
●斬新なアーキテクチャーのモバイルインターネット端末用マイクロプロセッサー やや専門的になるが、コンピューターアーキテクチャーという研究領域において、このVLIWという考え方は決して新しくない。十年以上前にその分野を少し勉強したことのある私の頭の片隅にすら、このVLIWという技術についての記憶は鮮明に残っている。 一言で言えば、「理論的には素晴らしい可能性を持つが、その完璧なレベルでの実現が非常に難しい」というタイプの技術である。つまり、あるチップ用(例、インテルx86)の命令を、もっと効率の良いチップ(例、トランスメタVLIW)でいきなり実行させることができれば高速になるが、「あるチップ用の命令を別のチップ用の命令に、効率を追求しつつ完璧に変換するということが現実的に可能なのか」という疑問が最後まで残る。この疑問の解決に、リーナスをはじめとする超一流のナードたちが数年の歳月を費やしてきたのではないか、というのが私の想像である。 もっといい加減に言うと、クルーソーは「コンピューター科学における最先端の超ハイリスク、超ハイリターン研究開発プロジェクト」の成果物である。2000年1月19日の全貌公開、半導体チップメーカーの提携検討やモバイル端末メーカーのクルーソー採用検討、実装テストを通して、その真の成果が明らかになっていくのであろう。 リーナス・トーバルズが、「無償のカリスマ、Linuxのリーナス」から「ベンチャー成功者で大資産家、クルーソーのリーナス」になる日は果たしてやってくるのであろうか。 1999年は、米国はニューエコノミー元年、日本はネット元年だったと思う。2000年は日米とも、より大きなスケールでフロンティアが拓けるとともに、過渡期の混沌も深まっていくだろう。 *ナード(nerd):シリコンバレーを理解する上で最も重要なキーワード。最先端ソフトウエア技術に精通し、ソフトウエア開発を「人生のファーストプライオリティ(最優先事項)」と無意識のうちに位置づけて行動している人たち。必ずしも若者だけとは限らない。日本語にはこの概念がない。「オタク」という手垢のついた日本語に訳してイメージすると誤解のみを生むと思う ■
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