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マイクロソフトを襲う第二の危機
1999年1月11日[日経パソコン]より
マイクロソフトが「90年代に入って二度目の危機」に直面している。 第一の危機は、「マイクロソフトにおけるインターネットの重要性認識の著しい遅れ」が発端で到来した。 94年11月、インターネット時代の旗手ネットスケープ・コミュニケーションズがブラウザーを市場に投入、あれよあれよという間に市場を席捲した。95年5月、ビル・ゲイツは幹部向け電子メールで危機認識を明確化し、自社戦略を「インターネット新時代」に合わせて転換する決意を表明した。 以来、およそ考えつくほぼすべてのことを、ビル・ゲイツはやってのけた。Internet Explorer(IE)の開発を加速させWindowsに無料で統合する、インターネット関連の有望ベンチャー企業があれば次々と高値で買収してしまう。IE採用を求めて、パソコンメーカーやISP(インターネット・サービス・プロバイダー)に圧力をかけた。 こんなことどもの正当性が、独占禁止法違反裁判で今問われているわけだが、そのさなか、マイクロソフトが追撃した最大のライバル、ネットスケープは、事業基盤をソフトウエア事業からサービス事業に転換し、ついに98年11月末には、アメリカ・オンライン(AOL)に買収されてしまった。 突き詰めて言えば、マイクロソフトは「PCの標準ユーザーインタフェースが、OSではなく、ブラウザーになってしまうことの脅威」(第一の危機)を、ここ数年で乗り切ったのである。 しかし、マイクロソフトは今、それ以上の危機に直面している。マイクロソフト存亡の危機と言っていい。 それは、「情報通信インフラにおける汎用性の高い大規模ソフトのほぼすべてが、営利企業内で開発されなくなり、無償に近い形で世界中のユーザーに配布されることの脅威」である。
Linuxとオープンソースの挑戦状 マイクロソフトが現在、世界でも一、二を争う企業価値を有する理由は、2020年くらいまでかかって世界中で投資が発生する次世代情報通信インフラにおける最もおいしい部分(汎用大規模ソフト)を、マイクロソフトが独占し続けるだろうと考えられているからである。そしてそれは、マイクロソフトが、現代コンピューター産業において最も戦略性の高い技術、つまり「汎用大規模ソフトを開発する技術」を持つワン・アンド・オンリーの営利企業と認識されているからである。 Linuxとオープンソースは、この常識に挑戦状を叩き付ける存在なのだ。 Linuxの開発者は世界中に5000人から1万人いる。この開発者のすべてが、誰からも強制されることなく、自分の意志でLinux開発に参画している。開発者の中には、時間だけはあり余るほど持つ学生、昼間はベンチャー企業に勤めながら深夜や休みの日に開発を続ける米国のプログラマーが多い。 さらには、コンピューター産業が存在しないアジア、ロシア、東欧などの国家機関に勤めるIQの高い研究者も多く参画しているらしい。開発メンバーは固定せず、いつも流動化しつつ増殖している。 開発されたプログラムは、ソースコードの形でインターネット上に公開される。誰かが開発したソフトを、別の誰かが改良する。誰かがバグを見つけてネット上で報告すると、顔も名前も知らない誰かがそのバグを修正する。こんな無償の営みが24時間絶え間なく続けられ、今やWindows NTを凌ぐ機能・性能を持つOSに進化してきたのである。これがオープンソースと呼ばれる新しい大規模ソフト開発プロセスの実態である。 オープンソースの勢いはLinuxにとどまらない。あらゆる汎用大規模ソフトのオープンソース型開発プロジェクトが、Linuxの成功にならって、これからも次々に生まれることだろう。
ビル・ゲイツが「第一の危機」を乗り切った経営手法は、対Linux、対オープンソースでは通用しない。究極の非営利ネットワーク組織の挑戦こそが、マイクロソフト「第二の危機」の正体だからなのである。
■ 掲載時のコメント:シリコンバレーで経営コンサルティング会社を起業して1年半。この場所に集まる一芸に秀でた世界中のプロたちと一緒に仕事しながら、知の創造における日本人の国際競争力に危機感を強くする昨今だ。
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