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パソコンは製造業か、流通・サービス業か
1999年5月3日[日経パソコン]より
パソコン産業はどこへ行ってしまうのだろう。 1998年の世界パソコン出荷台数は9000万台を越え、99年には1億台の大台を突破する見通しと、世界のすみずみにまでパソコンが普及していく勢いは止まらない。しかしパソコン産業関係者の表情は決して明るくない。 米国ダウ平均1万ドル突破を牽引する優良企業IBMでさえ、パソコン事業では1000億円以上の赤字(98年1〜12月期)を計上したことが、つい先ごろ明らかになった。 これほどの巨大産業で、これだけ変化が激しく(価格下落、技術革新、事業モデルのすべて)、シェア上位の企業が収益を上げるのがこんなにしんどい産業が、過去にあっただろうか。 昨秋、私がこのコラムを担当することになった最初の回で、パソコン産業がインターネットの影響を受けてついに変質を始めたという話を書いた。 インターネット上のコンテンツやサービスの方が、パソコン上のアプリケーションソフトよりも大切になったため、パソコン本体は最小限の機能でよいと考える顧客が増え、パソコンの売れ筋価格帯がぐっと下がった。パソコンはいずれ「主役であるインターネットの脇役的製品」と考えるべき時代がやってくると分析した。 それからたった半年、私は改めていま、さらにもう少し踏み込んで、「パソコン産業とは製造業なのか、それとも流通・サービス業なのか」という問いかけをしておきたいと思う。
象徴的な出来事が次々と起きる
インターネット時代は、94年11月、ネットスケープがブラウザーを無料配布したところから始まった。それから約4年半、ネットスケープとマイクロソフトとの「無料対無料」のシェア競争の揚げ句、「金儲け」の対象としてのブラウザー市場は焼き払われてしまったが、「インターネットへの窓」としてブラウザーは完全に定着した。 結局、パソコン産業も同じ道をたどるのであろう。 パソコン産業(特にサーバー以外)は、各種部品をまとめて組み立てて流通する流通業として「売り上げ」を計上し(ここがハードウエアゆえの特徴)、それだけでは利益率が低すぎて事業が立ち行かないので、新たな収益源としての各種サービスを創造して、サービス業として「利益」を出す産業に移り変わって行かざるを得ないのだと思う。
パソコン産業を製造業だと考える「パソコンメーカー」は滅び、パソコン産業を流通・サービス業だと考える「パソコン流通・サービス会社」(いま一番元気なデルは、このカテゴリーを創造した会社と考えればいい)の時代がやってくるとすれば、日本のパソコンメーカーは、よほど大胆に考え方を変えないと、売上高が大きい企業ほど巨額の赤字を流し続けるというとんでもない事態に陥る。パソコン産業の激変は、「電子立国・日本」の屋台骨を揺るがしつつあるのだ。
■ 掲載時のコメント:激しく変化する情報技術産業の第一線で働くのは大変なことだ。1週間に1日は必ず休むように、3年に半年は休む生活を心がけないと長続きしないな、最近そんなふうに思う。
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