ミューズアソシエイツのホームページへ パシフィカファンドのホームページへ JTPAのホームページへ 梅田望夫
the archive

ウィンテルはインターネットでも勝つか

1999年6月28日[日経パソコン]より

 「パソコンがコモディティになっても我が社が成長を続けていくためには、数千億円単位での金を使ってでも新しい道を探していかなければならない。パソコンの心臓部(マイクロプロセッサー)を作るだけでは不十分だ」

 インテルのクレイグ・パレット社長はこう語る。

 「インターネットはすべてを変えてしまった。我々も変化しなければならない。これまでのパソコン中心の企業ビジョンを、インターネット中心の企業ビジョンに変えなければだめだ」

 マイクロソフト、ビル・ゲイツ会長の最近のコメントである。

 いずれも、パソコン時代を制覇した両雄が、インターネット時代の到来によって、大きな転機を迎えていることを示している。

 パソコン時代の標準を握ったことで、インテル(売り上げ260億ドル、利益60億ドル、時価総額2000億ドル。いずれも98年の数字で、時価総額は日々株価が変動するので概算)とマイクロソフト(売り上げ145億ドル、利益45億ドル、時価総額4000億ドル)は、「あまりにも儲かりすぎる巨大企業」を作り上げてしまった。

 本業が「あまりにも儲かりすぎる」ゆえ、インターネット時代に対応するとしても、「現在の事業と同じくらいスケールが大きく、同じくらい儲かる」可能性を秘めた成長分野を選択せざるを得ない。しかし、そんなおいしい話は、おいそれと転がっていない。転がっていたとしても、昔と違って競争が激しい。さてどうするか。これが、「持てるもの」インテル、マイクロソフトに共通する経営課題である。

基本戦略は「カネで時間を買う」
 基本戦略は、現在の事業と同様「収穫逓増の法則」が働く大型成長領域に狙いを定め、「カネで時間を買う」ごとく、パソコン時代に蓄積した莫大な富を元手に、買収を含む合従連衡戦略に打って出ることだ。

 インテルがまず狙いを定めるのは、「インターネット時代の通信インフラを構成する通信機器の心臓部に相当するチップの事業」である。そして、マイクロソフトがまず狙いを定めるのは、「インターネット時代に登場する新しいネット端末の心臓部に相当する基本ソフトの事業」だ。

●99年3月4日、インテルはレベルワン・コミュニケーションズ社を22億ドルで買収したが、レベルワンはまさにインテルの狙いにぴったりとはまった中堅半導体メーカー(売上高約2億6000万ドル)だ

●99年5月6日、マイクロソフトはAT&Tに50億ドル(3%相当)の出資を発表。AT&Tが買収や提携で傘下に収めた放送ケーブル網(全米家庭の約60%)の、家庭からの接続ポイントとなるセットトップボックスにWindows CE搭載を狙う

 一見何の関係もないこの二つのニュースは、両社の基本戦略の根幹をなす「数千億円単位の金を使った」布石だったという意味で共通する。

 インテルにとっては半導体チップ、マイクロソフトにとっては基本ソフト。土地勘もあり、地の利もある。対象となる機器が変わってもビジネスモデルはさほど変わらない。だからこの事業領域は両社が絶対に死守したい必要最低限の大型成長分野なのである。

 しかし問題は、両社がもう一つの大型成長領域として特定するネットサービス関連事業である。ネットサービス関連事業は、事業のスケールは大きくできるし、「収穫逓増の法則」が働く分野であることも確かだ。

 ただ、マイクロソフトはMSNを立ち上げて以来、WebTV買収、メディア会社との提携、CATV会社への出資など、さまざまな手を打ってはいるもののまだ大きな成果を上げるに至っていない。インテルもこの分野への本格参入を発表したものの、今のところ「恐る恐る」という感じは否めない。

 明らかにビジネスモデルが異なり、勝ちパターンも違うネットサービスの世界でも、パソコン時代の両雄はやすやすと覇者になってしまうのであろうか。私はそこに大きな疑問符をつけておきたいが、インテル、マイクロソフトの動きに世界の情報技術産業全体が一喜一憂する時代は、まだまだしばらく続いていくことであろう。

掲載時のコメント:友人が住むシリコンバレーのアパートの玄関には、毎日、住人あてのネット通販荷物がうず高く積まれ、自分あての荷物を「掘り出す」までが一苦労なのだそうだ。ネット通販成長期の一風景である。

ページ先頭へ
Home > The Archives > 日経パソコン

© 2002 Umeda Mochio. All rights reserved.