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激変する日本のインターネットベンチャー

1999年9月6日[日経パソコン]より

 99年4月頃を境に「日本のインターネット・日本のベンチャー」シーンは激変しつつある。そのことを私は痛切に感じ始めている。次の3つの変化によって日本が変わりゆくスピードは、体制側(政府・省庁・経済団体・旧来型大企業経営者・新聞社)の想像を遥かに超えていくのではないだろうか。

投資ファンドの質、量ともの充実
 昔から日本にもベンチャーキャピタルは存在していたが、欧米型のリスクマネーとは性格を異にしていた。今、日本にも真のリスクマネーとしてのベンチャー投資ファンドが生まれつつある。富裕層の余剰資金がベンチャーへ再投資される時、その資金は真のリスクマネーとなる。ソフトバンク社長の孫正義氏(6月に2000億円のベンチャーファンド発表。一部は日本のベンチャーにも流れるだろう)、光通信社長の重田康光氏(8月に日本のベンチャー対象の300億円ベンチャーファンド発表)といった起業家型成功者ばかりでなく、外資系ストックオプションリッチ(マイクロソフト社長の成毛真氏がその代表)が個人投資家となっての投資ファンドも登場するだろう。

EXIT Strategyの充実
 「EXIT Strategy」という言葉は耳慣れないかもしれないが、創業したベンチャーがある程度成功を収めた(3年から5年)と仮定した時に、創業のリスクをとった人たち(起業家、経営者、投資家)が、そこまでの成功に対するリターンを得るための戦略を「EXIT Strategy」という。

 「EXIT Strategy」を描くには、株式公開(IPO)か自社売却のどちらかが、3〜5年後に可能とならなければならない。ナスダック・ジャパン構想(6月、孫氏が仕掛ける)は、日本でも早期IPOを常識として根づかせる第一歩であり、IIJ(インターネットイニシアティブ)の米国ナスダック株式公開(8月)は、正しくやれば早期IPOが米国でも可能であることを証明した。

 一方の自社売却は、買い手が正しくイメージできることが大切だ。買い手候補は、日本の大企業、米国ネット企業の2つがイメージしやすい。第一の大企業としては、たとえばソニーや富士通(ともにインターネット産業に積極的)がターゲットとしてイメージできるようになった。今後もターゲットは増えてくるだろう。

 米ネット企業は当然の候補だ。特に有力米国ネット企業の日本法人(例・ヤフー)の多くには孫氏が関わっているから、自然に企業売却の話が進むはずだ。現に日本生まれのベンチャーであるネットエイジは、始めたばかりのインターネット自動車見積取り次ぎサービス「ネットディーラーズ」事業をソフトバンクに数億円で売却した(4月)。事業はソフトバンクとマイクロソフトが始める「カーポイント」事業に引き継がれるわけだが、こんな例はこれからも増えてくるだろう。

ロールモデルの変化
 ロールモデルというのは、「ああ将来こんな人を目指したいなあ」という、若い人にとっての対象イメージのことを言う。ベンチャーブームを煽り立てるために、松下幸之助や盛田昭夫といった昔の話をしても今の若い人のロールモデルにならない。現代でも孫氏や重田氏の話ばかりでは、あまりに特殊すぎてロールモデルにならない。人々の気持ちが切り替わる新しい多様なロールモデルの登場が重要だ。

 とてもいい例は、慶応大学教授の村井純氏。日本のインターネットの父と言われる功労者だが、ソフトバンクの社外取締役に就任する(報酬は巨額との噂)と共に、IIJの創立に深く関わっていたから(現在同社特別技術顧問)、IIJの株式公開で巨額な資産を築いたと想像され、今後さらにそれが膨らんでいく可能性が高い。「自らの信じる研究をファースト・プライオリティに生きた副産物が莫大な資産」というのはなかなか良いロールモデルだ。

 もう一つのいい例は、日本オラクル設立まもなく入社した営業マンたち。彼らは同社株式公開で億単位の個人資産を得たはず。特に際立ったスキルや技術がなくとも「正しい時に正しい場所にいる」というのは、間違いなく新しいロールモデルである。

掲載時のコメント:シリコンバレーに活動の拠点を移してはや5年。以来日本との往復を繰り返しながら、外から日本を定点観測中。外からの方がはっきりと見えることもある。日本は間違いなく変わろうとしています。

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