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新刊書評 「100億稼ぐメール術」
2005年2月14日[プレジデント]より
「古い慣習が支配する日本の仕事のやり方を、何とかしてぶち壊したい---そんな気持ちで、私はずっと戦ってきた。ただ「昔から続いている」というだけの無意味なビジネス慣習を排除し、くだらない社交辞令も脱ぎ捨て、新しいIT時代の流儀を確立しようと頑張ってきた。」 と本書の冒頭で語る堀江貴文(ライブドア社長)にとって、日本エスタブリッシュメント社会は「心からどうでもいい」と思える存在である。「いずれ何かをしてもらいたい」というような下心を彼は全く持たない。だからプロ野球のオーナー会議を「老人クラブ」、渡辺恒雄、宮内義彦を「老害」と言い捨てて反省しない。同じネット産業の雄・三木谷浩史(楽天社長)のプロ野球新規参入が、日本エスタブリッシュメント社会の要請を受けたものと噂されるのとは対照的である。 プロ野球新規参入問題が「楽天対ライブドア」の一騎打ちになったときに、仙台市民は圧倒的大差でライブドアを支持した。大衆は、堀江に一貫するアンチ・エスタブリッシュメントという性格に好感し、三木谷とその背後に控える日本エスタブリッシュメント社会を嫌悪したのである。 本書はタイトルこそ「100億稼ぐ超メール術」とノウハウ本のような仕立てになっているが、堀江の仕事術、経営のあり方が詳しく語られていて興味深い。即断即決と即行動の精神、フラットな組織、社員間での徹底的な情報共有という三本柱によって堀江のスピード経営が成立しており、そのための秘密兵器が電子メールなのだということがよくわかる。 しかし、堀江の本と聞いただけで読む気も起こらないという読者も、本誌には多いことかと思う。そういう方には是非、先に読んでいただきたい本がある。2004年に米国で出版された本の中でも評判のいい「フューチャー・オブ・ワーク」[マサチューセッツ工科大学教授トマス・W・マローン著、ランダムハウス講談社刊]である。 「新しいITは情報伝達コストを低下させつづけることで、劇的に分散化された仕事のやり方がにわかに現実のものとなり、かつ最適なものとなる世界に私たちを導く」というのが「フューチャー・オブ・ワーク」の重要な主張の一つである。マローンの著作は、膨大な最新事象の研究から、ITが変えていく仕事や組織の未来を体系化し、「私たちは今、新しい仕事の世界へのとば口に立っている」と結論づける。たしかに堀江の本と違い、一流の学者が精魂こめて書いたものだけあって格調高い。しかし堀江はきっとこう言うだろう。「情報伝達コスト低下って、メールのことだろ? そんな本読んだって日本の大企業が変われるわけないよ。小難しい理論もいいけど、大切なのは、本当に実践するかどうかだよ。ライブドアで培ってきたノウハウを読んだほうがうんと役に立つよ」 「フューチャー・オブ・ワーク」を読んでから「100億稼ぐ超メール術」を読むか、「100億稼ぐ超メール術」を読んでから「フューチャー・オブ・ワーク」を読むか。いずれにせよこの二冊を読み比べることで、私たちの仕事の未来を垣間見ることができるに違いない。 ■
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