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グーグル成功の秘訣は高度な技術開発
2005年12月28日[産経新聞「正論」欄]より
≪IT産業の世代交代進展≫> 二〇〇五年はインターネット十周年の年であった。米ネット列強とも言うべきヤフー、アマゾン・コム、eベイは一九九五年に創業され、皆、創業十周年を迎えた。 それから遅れること三年、一九九八年にシリコンバレーで創業されたグーグルは「世界中の情報を整理しつくす」というビジョンのもと、情報発電所ともいうべきインフラを構築した。圧倒的成長によって一気に一九九五年創業組を抜き去り、ネット時代の覇者に躍り出た。 時価総額は十兆円をはるかに超え、グーグル以上の時価総額を有する日本企業はトヨタ自動車だけになってしまった。グーグルの創業者二人は一九七三年生まれ。三十二歳である。 一方、PC時代の覇者・マイクロソフトは、創業三十周年を迎えた。五十歳になったビル・ゲイツは、夫人やロックグループU2のボノ氏とともに、米タイム誌が選ぶ「今年の人」に選ばれた。しかしそれは事業の達成ゆえではなく、莫大な私費を投じての慈善活動が評価されたからだ。 マイクロソフトはもう業界の挑戦者ではなく、米エスタブリッシュメント社会の一員となった。IT(情報技術)産業における世代交代が、米国では確実に進展しているのである。 ≪成熟度で明暗分けた05年≫ さて目を日本のネット産業に転ずれば、ライブドア・フジテレビ問題と楽天・TBS問題でにぎわった一年だったといえよう。ライブドアの堀江貴文氏、楽天の三木谷浩史氏が「時の人」となり、表面的には米国と同じような世代交代が進行しているようにも見えるが、その内実は日米で大きく違う。 洋の東西を問わず、株式市場はネット企業の成長性に期待し、高株価をつける傾向にある。それはネットの可能性が大きいからである。しかし、新しく生まれた技術のインパクトが大きすぎる場合、産業・社会全体がその技術の本当の意味をわかるまでに、十年以上の歳月をかけての試行錯誤が必要となる。 その過程で、過剰な期待とその期待には容易には応えられない現実との間にギャップが生まれ、バブルが生成され崩壊する。二〇〇〇年には日米ともに厳しいITバブル崩壊を経験したが、それから五年が経過し、再び市場の期待が膨らんできた。 二〇〇五年は、その期待にどう応えようとするかという一点において、日米の違いが如実に現れた年だった。 日本のネット列強たる楽天やライブドアは、いまだ中途半端な達成しかできていないネット事業をそのままに、旧産業の代表格たるテレビ局を併合しようと動いた。市場からの期待に応えるには、自らのネット事業を強靭なものにしていくだけではダメで、売り上げ・利益をしっかりと上げる確実な事業を持つ旧産業を取り込んで融合するしかないと判断したのである。 ≪情報インフラ構築が勝者に≫ 一方、米ネット列強は圧倒的な技術開発力を武器に、斬新なインフラを構築するグーグルに刺激され、「ネット産業は、ITを利用し早い者勝ちでサービス展開すればいいという代物ではなく、高度な技術開発で道を拓くべき産業なのだ」という認識を新たにし、技術投資に邁進(まいしん)するようになった。「技術投資が極めて重要」という機運が産業界全体に再び生まれ、大学での技術開発やベンチャー創造も大いに活性化してきたのだ。 ちなみにグーグルの検索エンジン技術は、二人の創業者がスタンフォード大学に在学中に開発したもので、大学がこの技術の特許を持ち、グーグルに使用を認める見返りに、グーグル株を取得していた。スタンフォード大学はその株式を二〇〇五年に市場に放出し、売却益は四百億円に上った。この資金は、再び、基礎研究や高等教育へと還流していくのである。 こうした違いは大きく、このままいけば五年後、十年後に、さらにその差が広がってくるに違いない。 「IT革命」とか「情報スーパーハイウェイ」といった言葉は、バブル崩壊後に死語となった。物理的なITインフラたる「情報スーパーハイウェイ」を構築すれば「IT革命」が達成される−九〇年代には常識だったこの世界観が誤っていたからだ。 本当に大切なのは物理的なITインフラよりも、情報(I)インフラだった。そのことを証明し、マイクロソフトに代わってIT産業の盟主に一気にのし上がりつつあるのがグーグルである。そしてグーグルという怪物を生む環境こそが、シリコンバレーや米国高等教育の底力なのである。 ■
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