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ネット学習の奥義を伝授

2000年3月6日[日経産業新聞]より

 ずいぶん長くこのコラムに寄稿してきたが、私の担当は今回で最終回となる。そこで、特に十代、二十代、三十代前半くらいまでの読者(二十一世紀のニューエコノミーの担い手たち)を意識して、「シリコンバレーを中心として日々激動するネット産業やニューエコノミーの現実」をいかにして勉強するかについてまとめたいと思う。

 これは私が毎朝5時から8時までの三時間を原則充当して、シリコンバレーでプロとして生きていくために、「必要最低限の日課」として年々も続けている勉強法の一部でもある。プロスポーツ選手が毎日毎日続ける筋力トレーニングのようなものだ。
 やるべきことはシンプルではある。英語で書かれた「筋の良い」記事や論文を読み、自分の頭でその意味をリアルタイムで考えることである。重要なのは、知識を詰め込んで「オタク」になることではなく、情報を触媒にして考え、自らの行動に結びつけることだ。

 では読むべき「筋の良い」記事や論文をどう選ぶのか。ここに勉強法のカギがある。私も外資系コンサルティング企業に十年、シリコンバレーで創業して三年になるので、日本人の中では英語力があるほうだとは思う。しかし読解力のスピードにおいてネイティブの連中に対して圧倒的ハンディを背負うわれわれは、「筋の良い」ものだけを効率よく読む工夫をしなければならない。

 以下は、私が進める主に「初級・中級向け」必読新聞、必読雑誌の紹介である。「初級・中級向け」という意味は、以下の新聞・雑誌にかかれている内容の本質くらいはリアルタイムできちんと理解していないと、ネット産業の最前線でプロとして活躍していくことは難しいという意味だ。

 この理解の上に「上級向け」のニュースレターや特定分野を深ぼりにした雑誌やウェブサイトがあり、そのさらに上に、インサイダーたちとの会合によって得られる一時情報がある。

 勉強もろくにしないでシリコンバレーにやってきて右往左往するよりも、日本にい
てきちんと勉強しているほうがよっぽど実力がつく。インターネット時代の最大の利点は、英語さえ読めれば日本にいても何も困らないことだ。

 まず新聞から。やはり「ウォールストリート・ジャーナル」(ウェブ購読料は年間二十九ドル)と「ニューヨークタイムズ」(ウェブ無料)の二紙が圧倒的にいい。この二紙に関しては、紙に印刷された新聞を購読する必要はまったくなかろう。ともにテクノロジーに焦点を絞ったホームページがあるので、いずれかをブラウザーのホームに設定しておくのが良いだろう。

 余談になるが、私の場合、新聞はウェブで、雑誌は配達される紙ベースの雑誌で読んでいるが、日本からならば雑誌もウェブで十分ではないかと思う。これは趣味の問題である。

 総合雑誌でネット産業、ニューエコノミーに強く、論説がきちんとしているのは「エコノミスト」(英)、「ビジネスウィーク」「フォーチュン」の三誌であろう。米国発ニューエコノミーの世界的席捲(せっけん)に対する姿勢において、「エコノミスト」の論説(実にシニカル)と「ビジネスウィーク」の論説(実に積極的)は対極にあり、その両方をきちんと押さえながらこれからの時代を考えるのはとても重要である。

 以上が初級である。

 中級は、ネット産業とニューエコノミーを専門とする雑誌群である。この雑誌群の存在とその売れ行きこそが、米国ネット産業の層の分厚さといっていい。情報が実に充実している。

 まず絶対に押さえたい必読雑誌が、「インダストリー・スタンダード」(週刊)と「ビジネス2.0」(月刊)と「レッド・へリング」(月刊)の三誌であろう。特に「インダストリー・スタンダード」の無料電子メールサービスは充実している。

 それに続くのが、「アップサイド」(月刊)、「ワイヤード」(月刊)、「フォーブス」別冊の「フォーブスASAP」(隔月刊)、「ファスト・カンパニー」(月刊)の四誌である。中でも「ファスト・カンパニー」の毛色が少し変わっていて、ニューエコノミーを個人の生き方という角度から切り取る支店がユニークである。

 以上が中級である。

 上級となると、これは専門分野ごとに千差万別だが、ネット企業の創業を志す人は、ハーバード・ビジネス・レビュー(隔月刊)くらいは読んでほしい。少し学術的過ぎると思われるかもしれないが、先端の研究成果がその日のうちに現実のネット事情の形で試されていくのがシリコンバレーのスピード感でもあるからだ。

 「乗りと勢い」だけでネット事情を創造できる時代は早晩終わり、日本にも「情報技術(IT)とネット経済理論と最新経営学論理組み合わせて、新製品・新サービスを創造して価値のある新しい企業を作る。」という果てしない本格的競争の時代まもなくやってくる。その時に、きちんとした勉強を積み重ねて真の実力を身につけた「知的にたくましい若い起業家たち」の厚みがなければ、日本のネット産業は立ち行かなくなってしまうだろう。

 本コラム連載の最終回である本稿が、そんな起業家予備軍たちを刺激する一助となれば幸いである。

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