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相次ぎ「強者連合」
中核技術磨き標準握る 企業群を拡大、主導性発揮

1997年11月21日[日経産業新聞]より

 コンピューター、通信、家電、出版、放送、金融、流通といったさまざまな産業の境界が融合し、異なった遺伝子をもつ異質な企業群がうごめいていて新市場創造を目指す世界。これを「ビジネス生態系(エコシステム)」と呼ぶ。

ビジネス生態系続々
 1980年代から90年代初頭にかけて勃興したパソコン世代とは比較にならないほどのスケールで、これから21世紀にかけてネットワーク世代の新市場が立ち上がってくる。

 グローバル情報通信インフラがこれから整備されていく中で、さまざまな新しい「ビジネス生態系」のイメージをどう構築するか。そしてそのイメージの中で自社はどんな強みを生かして、どんな役割を果たしていくかを考え抜くことが、リーダーシップ戦略の第一歩だ。

 新しい「ビジネス生態系」のイメージが出来上がると、それを他社と共有できるビジョンのレベルにまで深め、その思想を伝導していく。経営トップが伝道師(エバンジェリスト)の役割を果たし、広くビジネス世界にその考え方を普及させ、この「新しいビジネス生態系」に参加する企業群を増やしていくのだ。

 中核となる技術を磨いて標準化し、さらに異業種の強者たちと「強者連合」パートナーシップを構築していく。

 こうした枠組みを作っておけば、環境変化がいかに激しく、将来がいかに予測不能であっても、たいていのことは適応可能な強い生態系になっているに違いない。生態系自身が強くて、その中でリーダーシップを握っていれば、必ず勝者になれるという考え方だ。

トップの主要関心事
 たとえば、前回「ビジネス生態系」(20日付)で少しふれたように「ウィンテル・アーキテクチャーを中心としたパソコンビジネス生態系」はマイクロソフトとインテルが作り上げてきた現在の生態系で、彼らはその中での中核標準を押さえつづけることでリーダーシップを確立している。

 一方、新世代の「ビジネス生態系」のイメージは、各社各様である。

 サンやオラクルは「軽いネットワークコンピューターと重いサーバー」を中心とした新しい生態系をイメージし、ウィンテル・アーキテクチャー中心の生態系に挑戦する。サンの提唱する「Java」はその中心となる標準だ。

 ヒューレット・パッカードはプリンターを中心とした新しい生態系をイメージすることで、ゼロックスの支配するコピー産業、コダックが支配する写真産業と代替することをもくろんでいる。ライブピクチャーというベンチャー企業やマイクロソフトと共同で、新しいカラー画像処理の標準「フラッシュピックス」を開発し、キャノン、IBM、ネットスケープといったつわものたちのサポートを取りつつある。

 マイクロソフトのビル・ゲイツ氏は「グローバル双方向情報ネットワーク」という極めて大きな生態系イメージを描き、その中で最も付加価値の高い部分をおさえるにはどうしたらよいか、何を自分たちがやり、どの会社を買収し、どこに資本参加し、誰と強者連合を組めばよいのか、日夜考えつづけているようだ。

スキルや資産を獲得
 数々のスタートアップ(生まればかりベンチャー企業。)の買収による各種技術、NBCとの提携によるコンテンツ、ウェブTVの買収やケーブル会社への出資によるテレビからのインターネットアクセス、ある種「縄張り」を作るような感覚で、スキルや資産を獲得していく生態系リーダーシップ戦略である。

 93年度ごろから数年間の「次世代がどんな形に姿になるのかを模索していた時代」を終え、昨年末あたりから米国ハイテク企業の経営者たちが、「もう実行あるのみだ」という感じで、何か吹っ切れたかのように前へ進み始めた。

 「勝ち組」と「負け組」の二極分化が進む中、将来の「ビジネス生態系」について正しいイメージを構築し、その生態系の核になる技術で標準を押さえ、強者をその生態系の中に引っ張り込んで市場を創造し、さらにその生態系全体を強くしていくことが、「勝ち組」に入る秘訣だ。

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