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新事業支える開拓精神
1998年5月18日[日経産業新聞]より
1994年末のネットスケープ「ナビゲーター」のリリース以来、米国ではWebサイトを新しい出版メディアととらえた「オンライン出版」(Webパブリッシング)事業に、多くの企業が極めて真剣に取り組んでいる。「真剣に取り組む」という意味は、ただ何となく思い付きのコンテンツをWebサイトに掲載するのではなく、経験ある編集長を責任者に据え、スタッフをきちんと集めて、金をかけてコンテンツを充実させ、新しいビジネスを模索しているということである。
ただ、それでもなお「紙に印刷して、それを物理的に配る」という巨額のコストを削減できる利点、インターネットの「メディアとしての可能性」に限りがないこと、この2つを理論的支柱に、大型新事業の創造を目指して、当面の赤字を覚悟しつつトライアルが盛んに続けられている。 マイクロソフトのオンライン総合雑誌「スレート」も、そんなトライアルの一つである。 ビル・ゲイツ会長は96年4月、マイクロソフトが始める「オンライン雑誌」の編集長に、出版・メディア界の大物、マイケル・キンズリー氏の招聘(しょうへい)を発表した。雑誌創刊は96年6月。最初半年は無料だが、96年11月から年間購読料を19.95ドルとすると発表。しかし、11月になっても有料化に踏み切ることはできず、97年1月、キンズリー氏は「スレート」誌上で「現段階でWebサイト上のコンテンツを有料化することはほぼ無理。機はまだ熟していない」と、事実上の敗北宣言を出した。 以来、顧客が金を出すに値するコンテンツ像の明確化、インターネットという出版メディアの本質の考察、新しいビジネスモデルの検討を、無料での出版活動のなかで地道に続けつつ、誌面の向上に努めてきた。 そしてとうとう98年3月、ついに「スレート」は念願の有料化に踏み切った。年間購読料は当初の予定通り19.95ドル。 以来、約3ヶ月。しかし・・・ 今なお無料時代の推定購読者数、約20万人に対し、有料購読者数はまだ5万人にも達していない。30人の編集スタッフを抱える「スレート」の年間コストは約500万ドル。一方、仮に有料購読者数を5万人と多めに見積もってもその年間収入は約100万ドル。購読収入とほぼ同額の広告収入を織り込んでも、収入はコストに遠く及ばない現状である。
可能性さえ膨大ならば、成功の保証がなくても、人に先駆けてなにかを始めるのは当たり前ではないか。こんな考え方をフロンティア精神と称する。 この精神が社会にどっしりと根付いていることこそが、まだ海のモノとも山のモノともわからないインターネットビジネスにおける「米国の異常なまでの突出」の理由なのである。
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