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ヤフー株高騰の構図
1998年6月14日[日経産業新聞]より
インターネット情報検索サービスで急成長するヤフーの株価は、6月7日現在105ドル。株式時価総額は約50億ドルにまで膨れ上がっている。2年前の株式公開時の時価総額が約3億ドルだから、年に4倍、2年で16倍という異常なハイペースである。 半導体技術の革新スピードを表す「ムーアの法則」ですら「18カ月で2倍、3年で4倍」が基本であるから、それよりもさらに3倍程度速い計算になる。 しかし、4月上旬に発表されたヤフーの98年度第1四半期(1〜3月)の決算は、売上高約2000万ドル、純利益約430万ドルに過ぎない。 急成長企業の年間決算数字は、第1四半期の4倍で単純計算するのではなく、6倍か7倍で計算するのが妥当だが、それでも年間推定売上高は2億ドル前後、利益は3千万ドル前後である。つまり現在の時価総額は年間売上高の25倍強、利益の167倍と信じられないほど高い数字になっており、すべては将来の成長を担保とした株高なのである。
ヤフー株高騰の原因は、インターネットの「メディアとしての価値」の高まりにある。ヤフーの事業モデルは、民放テレビ局と同様、視聴者(インターネット利用者)からは金を取らず、企業からの広告収入をあてにしている。魅力あるコンテンツやサービスで利用者を増やし「メディアとしての価値」を高めるのが基本戦略だ。 そうなれはインターネット商取引の仲介役ともなり得る。既にヤフーは1200万人の登録ユーザーを持ち、1日平均1億ページ以上のアクセスを誇る。広告媒体としての価値を十分に持つマスメディアになりつつあるといってもいい。しかもまだまだインターネット時代は始まったばかり、これからがもっともっとおもしろくなるというのがヤフー株高を支える理論的背景である。 経済のグローバル化、情報の進展という世界経済大潮流の中で、米国経済は「ニュー・エコノミーの時代」を迎えたという説と、いやいやそんなことはない、単なる「バブルの再現」だという説と、真っ向からぶつかり議論になっている。9000ドル前後で推移するダウ平均株価が1万ドルを超えるのか、その前に暴落するのか、暴落するとしたらその下げ幅はどの程度なのか。米国経済・20世紀の大論争である。 しかし、ミクロに見た「ヤフー株高騰」をもって「バブルの象徴」とするのは間違いである。ハイテクベンチャー企業の株は、もともと乱高下が当たり前のハイリスク・ハイリターン株であり、景気よりも競争が株価に強い影響を与える。マイクロソフトとのブラウザー競争で傷付いたネットスケープ株が暴落したのは「バブル崩壊」が原因ではない。 ヤフー株が今後どう推移していくかは、「ポータル(Portal)」を巡る新しい激烈な競争に勝ち残っていけるかどうかにかかっている。「ポータル」とは最近、米国でしきりに使われている言葉だが、文字通りには「表玄関」という意。「できるだけ多くのユーザーにとってのインターネットへの表玄関たり得る、魅力的なコンテンツ、豊富なサービスを充実させたサイト」のことをいう。 巨額の広告収入を求めての「ポータル」を巡る競争の構図は表に示す通りだ。メディア産業、ソフトウエア産業、通信サービス産業、新旧・大小入り乱れての競争に、ヤフーが本当に勝ち残れるとすれば、可能性の膨大さからいって、現在の株高は十分に正当化できるのである。
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