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「ポータル」の競争ルール

1998年7月13日[日経産業新聞]より

 「ポータル」という最新キーワードの意味と、「ポータル」を巡る競争の構図を前回は紹介した。今回も引き続きポータル最新動向である。ポータルとは、「できるだけ多くのユーザーにとってのインターネットへの表玄関たり得る魅力的なコンテンツ、豊富なサービスを充実させたサイト」のことである。ヤフー、アメリカ・オンライン(AOL)がその先行ランナーだ。

 新しい事業機会において「新しい競争のルールについてのコンセンサスが得られたな」という気分が漂い始めると、シリコンバレーを中心に米はハイテク産業は激しいスピードで動く。「突然、竜巻に巻き込まれて、ふと正気に戻ると、風景が一変しているのに気付き、ぼう然とする」といった感じのことが、ほんの数週間のうちに起こってしまう。


 新しい競争のルールが見え始めたとき、そのままでは立ち行かなくなりそうなベンチャー企業は、今のうちに何とか高値で身売りしようと、売却先を探し始める。豊富な資金を持つ大企業はベンチャーの買収によって魅力的な新事業分野に参入できるのならは、安いものではないかと考える。

 「金のにおい」をかぎ付けたベンチャーキャピタリスト、投資銀行、弁護土、コンサルタントといったプロフェッショナルたちが、両者にとって合意可能な「ウィン・ウィン」のシナリオを次から次へと準備を始める。そして経営者による大きな決定が短期間のうちに下され、産業全体の姿、風景が一変してしまうのだ。

 ポータルにおける「新しい競争のルールについてのコンセンサス」とは次の4つである。

 (1) 巨額の広告収入を主体とした事業として設立しそうだ
 (2) 最終約にはせいぜい2社か3社による寡占になりそうだ
 (3) 寡占を目指して戦っていくには投資が膨大になりそうだ
 (4) 通信・放送が融合する21世紀を迎え、メディア産業と電話産業という巨大な旧勢力にとって千載一遇のチャンスといえそうだ。


 シリコンバレーで「ポータル」という言葉がぽつぽつささやかれ始めたのが今年の冬。この4つのコンセンサスがほぼできあがったのが春先。「金の動き」を伴って一気に大きなうねりとなり始めたのが、6月初旬からである。夏が過ぎ、秋が訪れるころには、第一弾の合従連衡が完了し、再び「新しい競争のルール」が見え始めるまで、各社とも「ポータル」自身の充実に励み、顧客獲得競争を続けていくのであろう。

98年6月以降の「ポータル」を巡る激しい動き
6/1 ネットスケープ「ポータル」事業本格参入するため、ネットセンターを大幅に拡充することを発表
6/8 ヤフーインターネット・コマース関連ベンチャーViaweb社を、4,900万ドルで買収。「ポータル」のコンポーネントを拡充。アメリカ・オンライン チャット・サービスを先行するベンチャーMirabilis社を2億8700万ドルで買収。「ポータル」のコンポーネントを拡充。
6/9 NBCインターネットの検索・情報提供会社、CNETに資本参加。CNET子会社のスナップ(「ポータル」会社)に出資(3,800万ドル)し、経営権を握る。
6/10 Inktomi検索エンジン・ベンチャー、Inktomiが株式をナスダックに公開。予想を上回る高値で取引される。
6/11 AT&T エクサイト両者共同の「ポータル」事業をスタート
6/17 AT&T アメリカ・オンラインアメリカ・オンライン(AOL)に対して、AT&Tが買収を提案(20億ドル〜30億ドル規模)し、断られていたことが明らかになる。
6/18 ディズニー3大ネットのABCを傘下に持つディズニーが、検索サービス大手インフォシークに資本参加(4億6,500万ドル)、経営権を握る。
7/1 ネットスケープテレビネットワーク(CBS、NBC、ABC、Fox)との提携(場合によっては資本参加、買収)の思惑で株価が31%も急騰

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