|
|
AT&Tの「複合体」戦略
1999年5月24日[日経産業新聞]より
3ヶ月前の本欄「ポータル巡り企業連合」(2月22日付)で、昨年末から今年初めにかけてのポータルサイトを巡る企業連合について取り上けた。ポータルはもはや単独事業として存在するのではなく、電話網、テレビ放送網をしのぐ21世紀の「クローバル双方向情報通信放送インフラ」の一部となったことを意味する。
そして、ゴールデンウイーク前後に、この「巨大複合体」を目指す動きに大きな変化があった。AT&TがCATV(ケーブルテレビ)4位のメディアワンを総額625億ドルで買収したからだ。 この買収は、AT&Tが続けてきた一連の合従連衡戦略の総仕上げと言える。目的は各家庭への高速インターネット通信用物理インフラを確保することだ。 家庭向け物理インフラでは、CATV会社が保有するケーブルが「本命」、地域電話会社が保有する電話線が「対抗」、衛星経由でというのが「穴」である。AT&Tはメディアワン買収で物理インフラの本命のケーブルへのアクセス(米家庭の約60%)をほぼ手中に収めたのだ。 AT&Tは売り上げ、収益ともに長距離電話事業に大きく依存している。21世紀の新インフラを支配する「巨大な複合事業体」に変身するためには、現在保有していない物理的インフラの確保がまず不可欠だったのである。 さてここでクイズ。AT&Tの壮大な戦略の執行によって、最も大きな打撃を被ったのはだれだろう。 答えはアメリカ・オンライン(AOL)である。 「巨大な複合事業体」の五つの構成要素における最初の二つ、高速インターネット通信用物理インフラ、高速インターネット接続サービスは、共に顧客から料金を徴収する。この二つがこれから競合関係になっていくところがポイントだ。AT&Tの戦略の根幹は、この二つをまとめてパッケージにして顧客に提供しようとする考え方である。 一方、AOLは、物理的インフラはコモデイティー化し、かぎを握るのは自らが、手がけるインターネット接続サービスだと考える。 低速インターネット接続においては、米国の顧客は、ローカルにはいくら電括をかけても一定料金というパッケージで地域電話会社と契約し、その上でAOLのようなインターネット接続サービス業者に月決め料金を支払う。このモデルがAOL的考え方である。 しかし現在、ケーブルモデムを使った高速インターネット接続サービスを受け入れる顧客は、地域CATV会社が提供する「物理インフラ、接続サービス一括パッケージ」を買っている。接続サービス業者を選択する余地は今のところない。 この新しいビジネスモデルが高速接続における常識となれば、AOLの世界観は覆る。60%のケーブルを押さえたAT&Tが、傘下のアットホームや提携関係にあるロードランナーと一緒に、「物理インフラ(ケーブル)、接続一括パッケージ」を顧客に提供する方向に向かう。結果としてAOLは締め出されてしまうことになる。
(1) AOLは、CATV会社がその物理インフラをすべてのインターネット接続サービス業者に開放させるべく、ロビー活動に力を入れている。この動きが今後、どんな展開を見せるのか。
■
|
|||||||||
ページ先頭へ | |||||||||
Home > The Archives > 日経産業新聞 |
© 2002 Umeda Mochio. All rights reserved. |