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ブロードバンドは徐々に

1999年12月20日[日経産業新聞]より

 12月6日、7日にサンフランシスコで開催された「テクノロジー・アウトルック」という会議に参加した。2000年以降の情報技術の流れを米国はどう見ているのか、そんな観点から今回はこの会議の様子を紹介することにしよう。


 会議を主催するテクノロジック・パートナーズ社は年に4回、情報技術関係の「アウトルック」会議を主催している。他の3回はネットワーク・インフラ分野、エンタープライズ分野(大企業の情報技術関連システム)、eコマース分野である。つまり今回の会議は「テクノロジー・アウトルック」と言っても、この三分野を除く情報技術に焦点が絞られていた。

 題して「パーベイシブ・コンピューティング未来」。パーベイシブとは、PC、テレビ、PDA(携帯情報端末)、携帯電話などありとあらゆるエンドユーザー・デバイスとインターネットが織り成す新しいコンピューティング・スタイルのことである。

 パーベイシブ・コンピューティングとなれば、モバイルとブロードバンドという二つのキーワードに話題が集約するのは自明である。

 モバイルについては日本に遅れること約2年の米国だが、来年から盛り上がりを見せる兆しがある。99年の日本市場は「iモード」に沸いたが、この会議でも米国以外の各国モバイル・コンピューティングの進展が話題となった。

 米国と他国の最大の違いは、PC普及率とPC活用の度合いである。米国は世界でもまれなPC先進国のため、端末から何をするだけという単なるモバイル・アプリケーションではなく、「PCとの共存を強く意識したモバイル・アプリケーション」を指向している点が要注目である。

 つまり、モバイルでは少し周回遅れでも、パーベイシブという観点からは、米国が一気にその遅れを挽回する可能性を秘めているということだ。

 
 例えば、私が二台のPCと(自宅と会社)とPDAと携帯電話を使っているとしよう。毎日、そのどれかの上で情報(スケジュール、住所録や電話帳、電子メール、ファイル)が刻々と更新される。ある端末で更新された情報が、常に他の端末でもきちんと更新されるようにするのは、簡単なようで容易ではない。こんな日常の問題を解決するソリューション(問題解決策)に特化したフュージョン・ワンという会社は、会議でもかなり注目されていた。

 モバイル端末とPCを同時に活用するヘビーユーザーのために、新しいサービス群が今後次々と登場してくる兆しも感じられた。PC時代は、たくさんのソフトを詰め込むことで何から何まで一台のPCでやってのけようとした。インターネットが普及するまでは、最も効率的なソリューションだったからだ。しかし、パーベイシブ・コンピューティングの心は、最適なフォームファクター(大きさ、重さ、形状)の端末から、最適なアプリケーションを、インターネットを前提に動かすことだ。

 その意味で「PCとの共存を強く意識しながら」モバイル・アプリケーションを考える米国のアプローチは、パーベイシブ・コンピューティングの第一歩として実に先進的なのである。

 さてブロードバンドについても、アプリケーションという視点がカギである。ケーブルとADSL(非対称デジタル加入者線)からのインターネット・アクセスを爆発的に促進させるアプリケーションは果たして何なのであろうか。

 「ブロードバンドのアプリケーションは何か」という話題は古くて新しい。八十年代日本のニューメディア、九十年代初頭米国のビデオ・オン・デマンド、ともに掛け声で終わったのは、想定アプリケーションが誰の心も引きつけなかったからだ。そして今、インターネットは何のためにブロード化されなければならないのか。何のために十倍、二十倍早くならなければならないのか。

 この答えが実はまだ見えない中、膨大な試行錯誤が続けられているのが、米国の最先端の現実である。
 私は、ブロードバンドは実に緩やかに進化していくと考えている。その考え方に題名をつけるとすれば、「インターネット・アクセス・シェアリングに始まる緩やかなブロードバンド普及」論である。

 家庭内でお父さんは仕事に、お母さんは電子メールに、子供たちは宿題やオンラインゲームにアクセスしたいというニーズはすでに高まっている。しかし、個々のアプリケーションのためだけならばブロードバンドはあまり必要ない。ただ皆が同時にインターネットを使う頻度が高まるので、普通の電話回線を使うよりもケーブルかADSLと契約する。同時に、ブロードバンドを複数のユーザーに分配できる機器も導入する。

 つまりインターネットアクセスを家庭内でシェアしたいという欲求からブロードバンドが緩やかに普及するのではないかという説である。あいまいな動きながらもブロードバンド人口が増えていけば、だんだんにウェブサイト(eコマース、ポータル等)もマルチメディア化していく。そんな普及シナリオを、私はイメージしている。

 インターネットとテレビの融合のような何か特別なキラー・アプリケーションが生まれることでブロードバンドが爆発的普及を始めるといった説には、私は反対なのである。

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