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The Archive

2003/02/13


いつも何気なく使っている「ムーアの法則」という言葉がある。インテル創業者のゴードン・ムーアが昔々予測した半導体進歩の法則通りに、今も半導体の集積密度が上がっているというのは有名な話だ。そのムーアの法則について書かれた最初の論文(Original Paper)をインテルのサイトで読むことができる。インテル創業前、彼がフェアチャイルドにいた頃の1965年に書かれたものだ。

「The future of integrated electronics is the future of electronics itself. The advantages of integration will bring about a proliferation of electronics, pushing this science into many new areas.」
という書き出しで始まるこの論文が、40年近く前に書かれていたということに驚きを禁じえない。読み始めると、もっと最近になって書かれていたものだと錯覚すること、必定であろう。ビジョナリーとはこういう人のことを言う。

興味のある人は、インテルの「ムーアの法則」のページ「Breaking Barriers to Moore’s Law」のページもあわせてご参照。インテルのサイトは本当に充実している。

ロボット、ナノテク、バイオは30-40年前の半導体と同じような位置付けに今あるのかもしれないが、現代のビジョナリーの一人、サンのビル・ジョイが3年前に書いて物議をかもした「Why the future doesn't need us」という

「From the moment I became involved in the creation of new technologies, their ethical dimensions have concerned me, but it was only in the autumn of 1998 that I became anxiously aware of how great are the dangers facing us in the 21st century.」
という書き出しで始まる悲観的な論考(ウェブ上で11ページあります)は、果たして40年後に、「ジョイの警告」として世に知れ渡ることになるのだろうか。

2003/02/12


12月に東洋経済に掲載された川本裕子さんの「戦略なき社会主義化は日本経済を滅ぼす」という論考が、日本のマッキンゼーのサイトで読める。論旨明快、必読の論考である。

「銀行に対する公的資金の投入にせよ、産業再生機構にせよ、国が前に出て(場合によっては相当の国民負担も覚悟して)現下の経済危機を管理するという発想 である。それだけに、国家の経済管理に伴う大きなリスクをよほど意識して取り組まなければ、日本経済が社会主義化してしまう危険もあるのに、当局者はその危険を意識的に無視してしまっていないかということである。」
「ベルリンの壁が崩壊して社会主義経済システムの破綻が歴史上確定したのは今から10年以上も前のこと。社会主義を標榜する中国が資本主義システムを導入 して経済躍進を遂げたのを目の当たりにしている現在の日本で、社会主義化の危険を感じるのは何と矛盾に満ちた光景であることか。」
「非効率・不採算部門を残したままでは新しいものは生まれない。不良債権の塩漬けは日本経済の潜在力を押さえつける元凶である。おカネの返せない企業は整 理する。もちろん、整理される企業の事業の中でも、やってみる価値があるという人がいるかぎりは売却して再生する。これは「市場原理主義」というほどの話でも何でもなく、日本経済が自由主義経済システムとして存在するかぎりまったく普通のことにすぎない。」
道路公団の民営化推進委員や金融問題タスクフォース・メンバーとしての最近の経験から、川本さんは、現在の日本経済が向かう方向を、社会主義化と実感をこめて表現されたのだと思う。

しかしそれ以上に同感したのは次の文章である。

「マクロ的に見た場合、よく話題になる「中高年のリストラ」よりも、若年層の失業率の方がよっぽど大問題だ。不良債権を確実に処理して事業再編を進めることこそ、若年層に希望を与える道である。若年層ができるだけ早く、できるだけ多く「よい仕事」に就くことこそが、将来の日本経済にとっていちばん大事な人的資本の形成につながる。不良債権処理の遅れは、事業再編を妨げ、ひいては人的資本形成の遅れとなる。人的資本形成の遅れは、深刻さを何度強調しても足りない。依然としてこの国のプライオリティである社会資本形成の遅れよりも深刻なのではないか。」
是非、全文をお読みになられることをお勧めする。

なお、ついでながら、川本さんが道路公団の民営化推進委員として委員会に提出したPDFファイルを官邸のサイトで読むことができる。マッキンゼーのアプローチを政策に反映するとどういう雰囲気になるかについて、僕の世代は、大前研一さんの「平成維新」などの著作で体感したが、コンテンポラリーなテーマとして道路問題を取り上げたときの課題整理資料は、格好の勉強材料となることだろう。

2003/02/11


一ヶ月か二ヶ月に一回、日経新聞と日経産業新聞をまとめて読んで、面白かった記事を選ぶようにしている。そういう意味では、以下、自分のメモ代わりの内容に過ぎないが、一月の記事から面白かったものを。

まず本欄でもちょっとご紹介した1/3ガルブレイスの経済教室「日本の再設計」。同じく経済教室からは、1/14ダニエル・ヤーギン「世界経済の健全化 意識を」。1/21浜田宏一「量的緩和の実効引き出す」。1/28小林慶一郎「脱デフレ、銀行健全化で」。1/30高安秀樹「為替リスクの解消に挑む」。

浜田、小林の論によれば、日本経済の現在の問題の根源が、貨幣の信用乗数と流通速度にある。高安の論文を読むと、ソニーという会社は研究開発においても、明らかに他社と違うアプローチを取っていることがよくわかる。

そして、1/11ジョン・リード(米シティグループ前共同会長)の「日本病・私の処方箋」。

「日本は不良債権問題の本質をはき違えていないか。これは本来、返せないほど借金をした借り手企業の問題だ。」
「企業が事業の選択と集中を進めて利益を稼がない限り、不良債権はまた発生する。将来展望を描けない会社は延命させるのではなく、切り捨てるべきだ。」

文化欄では1/19中野孝次の「老年をたのしむ」。切り出して引用することができないほど完璧な文章だ。

作家インタビューでは、1/4「作家・高村薫さんに聞く」と、日経産業1/10の石田衣良「ぶれいくするう 2003年へのメッセージ」が面白かった。僕は石田衣良の「池袋ウェストゲートパーク」の大ファンなので、このインタビューをとても面白く読んだ。

「日本の経済基盤は大きい。日が差しているところにぱっと入り込んでしまえば、個人や小さい集団が潤うということはいくらでもある」
「楽しんで集中できるような趣味や仕事は何か。それをうまく探し出していければ、個人の厚みが増して日本はすごく暮らしやすい社会になる」
こうして考えてみると、結局、新聞記者が書いた記事はほとんど残らなかったですね。

2003/02/10


チェスの世界についての最新動向がニューヨークタイムズの記事にまとめられている。将棋とチェスは兄弟みたいなものだから当たり前と言えば当たり前だが、将棋の世界でも、この記事に書かれているのと全く同じ性質の新しい萌芽が出始めている。唯一違うのは、チェスよりも将棋のルールがより複雑なので、コンピュータがまだそれほど強くないことである。

チェスの世界の産業構造はあまりよく知らないのだが、将棋の世界の産業構造がこれからどう変わっていくのか、ということに僕はいちばん興味がある。

将棋の産業構造というのは、だいたい次のようなものだ。

大手新聞社が名人戦や竜王戦といったタイトル戦を用意して、莫大な契約料を将棋連盟に支払い、棋士への賞金も用意する。将棋のプロはだいたい150人くらい居て、その人たちがランクに応じてこの契約料を分配して、年収のベースとする。勝てばそれに賞金が上乗せされる。将棋のプロになるには、将棋連盟が用意する下部組織に少年少女の頃から属して、勝ちあがらなければならない。その世界を経験していないアマチュアはいくら強くても、将棋のプロになってこの新聞社からの契約料の分配にあずかることはできない。

大手新聞社がなぜ莫大な契約金を将棋連盟に支払うか。実に難問である。戦後の娯楽がなかった時代の名残りとも言えるし、文化のための支出という側面もある。少なくとも経済合理性に基づいて判断されていないことだけは事実だ。この周辺に広義の将棋産業がある。棋譜販売や出版や将棋ソフトや指導や普及の仕事だ。

また最近、将棋の世界でもアマチュアが強くなっているということがある。色々な理由が指摘されているが、この記事の中で書かれているDemocratization (of chess)というのが大きいと思う。パソコンやネットが普及する前までは、広義の情報独占(最新定跡、最新棋譜、強い者同士での練習機会など)という意味で、将棋のプロの世界はアマチュアに対して、圧倒的優位に立っていた。しかし、今、情報があまねくほぼすべての人に共有され、将棋倶楽部24(無償のネット対局サイト)などのツールの発展ゆえに、弱いプロよりも強いアマチュアがたくさん現れるようになった。

プロとアマチュアの絶対的上下関係なども含めた現在の将棋の世界の古い産業構造は、技術革新とともに、大きく変化していかざるを得ないだろう。

そして最も本質的なのは、人間より将棋が強いコンピュータが現れたとき、将棋産業はどんな形で存続し得るのか、ということだ。

「"Because of computers, humans are playing more broadly, and there are astonishing numbers of new ideas," said John Watson, the author of several books on modern chess strategy. "Computers are opening the game up much more than they are closing it." But others say chess is becoming more like checkers, with so much known or memorized that games now more often end in draws. They complain that players have become slaves to their software, so fascinated with the myriad possibilities it presents that they do not bother to work out their own new strategies.」
将棋は研究し尽くされて、両者が最善手を指すと引き分けになりやすいゲームになってしまうのだろうか。

もしそうならないとしても、将棋のプロは、どういう価値を生むことで、飯を食っていくことができるのだろう。強いコンピュータを育てることができる人のほうが、プロの将棋指しよりも価値がある、という時代がひょっとするとやってくるのかもしれない。

人間の最高峰とコンピュータがほぼ同じ強さになったチェスの世界では、

「Mr. Kasparov champions the idea of "advanced chess," in which humans compete by using sanctioned computer software during the game, and he has participated in one such game. The future of chess, Mr. Kasparov and others suggest, lies not in the competition between man and machine, but in their fusion.」
「On the Internet site of ChessBase, a leading publisher of chess programs, a Centaur Room is set aside for people who want to play as a team with their computers.」
というふうに、人間とコンピュータが競争する時代を終えて、両者が融合することで新しい価値を追求する構想が出始めている。ゲーム自身に価値がなくなれば、産業は衰退していくしかないから、ルールを変えてでも価値を創造していかなければならないのである。

この続きはまたいずれ。

2003/02/09


JTPAを始めてから、アメリカ留学についてあれこれとサイトを散策するようになった。基本的な数字を押さえるには、opendoorsというサイトがいい。

最新のニュースリリースによると、全米での外国人留学生数は、

「For the second consecutive year, the number of international students attending colleges and universities in the United States increased by 6.4%, bringing the total this year to a new record high of 582,996.」
582,996人。カレッジ以上の学生だから、語学留学は含まない。

国別には、

「India is the leading place of origin for international students (66,836), followed by China (63,211), Korea (49,046), Japan (46,810), Taiwan (28,930), Canada (26,514), Mexico (12,518), Turkey (12,091), Indonesia (11,614), and Thailand (11,606). Asian students comprise over half (56%) of all international enrollments, followed by students from Europe (14%), Latin America (12%), the Middle East (7%), Africa (6%), and North America and Oceania (5%).」
というわけで、インド、中国、韓国に次ぎ、日本は第四位。中国・インド・韓国・日本・台湾の上位五カ国はすべてアジアで、それだけで全体の35%。他のアジア諸国も含めれば、全体の56%に上る。

去年の数字は、

「China is the leading place of origin for international students (59,939), followed by India (54,664), Japan (46,497), Korea (45,685), Taiwan (28,566), Canada (25,279), Indonesia (11,625), Thailand (11,187), Turkey (10,983) and Mexico (10,670).」
だったので、二位だったインドが一位の中国を抜き、四位だった韓国が伸びて三位の日本を抜いたわけだ。まあ細かな順位はどうでもいいのだが、だいたい5万人弱の日本人が、今、アメリカに留学しているということは、基本データとして押さえておくといい。今でもけっこう多いのだなぁ、というのが正直な感想。

母数となる日本人学生数は、2000年の数字だが、文部科学省の日本の「学習人の現状」によれば、大学生総数が247万人で、大学院生が21万人である。大学生・大学院生総数の1.7%くらいという計算になる。また、留学生.comというサイトがある。たとえば、このアメリカ留学生のページに行くと、アメリカの各州ごとに、どんな留学生が自分のホームページを持っ て、留学生活情報を発信しているかがわかる。いずれこの中から、面白いものを抽出してブックマークに入れることにしよう。まもなく日本から『高校卒海外一直線―エリート高校生の「頭脳流出」』という昨年11月に出た新刊が届くので、それを読んでから、またこの話の続きを書くことにしたい。


シリコンバレーはここ数日、これ以上ないという快晴の日が続いている。あんまり天気がいいので、庭でジャックの撮影。会心のショットを二つほど。

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